公開日:2024-06-13
プラグインの継ぎ足しをやめてカスタマインに移行、オンプレミスシステムのクラウド化に成功
トーセイ株式会社
DX推進本部 次長 稲葉 康弘 様
トーセイ株式会社は、東京証券取引所プライム市場とシンガポール証券取引所メインボードで上場している総合不動産企業です。土地を取得してビルやマンションを建てる開発だけでなく、既存のビルをバリューアップして流通に戻す再生事業を主に手掛けているのが特徴です。その他には、不動産賃貸事業、不動産ファンド・コンサルティング事業、ホテル事業、不動産管理事業などもおこなっています。
トーセイでは、業務システムをオンプレミスで構築して運用していたのですが、外出先からスマートフォンでアクセスできないといった課題がありました。中でも日報作成を効率化したいというニーズがあり、「kintone」を導入しました。
アプリを使いやすくするために、個別開発を行ったりプラグインも活用したのですが、色々と入れて行くうちに不具合が起きるようになってきました。そこで、「gusuku Customine」(以下、カスタマイン)を導入し、リプレースしたのです。
今回は、スモールスタートから始まった「kintone」活用が、ペーパーレス化による業務改善や基幹システムのクラウド移行といったDX推進に至るまでの経緯について、トーセイ株式会社 DX推進本部 次長 稲葉康弘氏に伺いました。
■重いオンプレミスのシステムからクラウドのkintoneに乗り換えた
2018年ごろ、稲葉氏はアセットソリューション事業推進部で営業のシステムやマーケティングを支援していました。当時の日報管理ツールはオンプレミスで運用しており、とても挙動が重かったそうです。その日報データを元に、集計して週報をExcelで出力していました。取引先や顧客の名刺情報を手入力するのも手間がかかります。その上、スマートフォンから操作できないということも課題でした。
そこで、クラウドで使えるツールを探すことになりました。名刺管理ツールは「Sansan」を導入することになったので、日報ツールも連携できるものがよいと探したところ、いくつかの候補が見つかりました。
最終的に「kintone」を導入することになったのですが、決め手はノーコードツールなので、日報の作成以外にも様々なアプリを作れるという点でした。新橋駅に大きく掲載されていたkintoneの広告を上司が目にしていたため、すんなり話が通りました。
「当時は、kintoneをちょっと試してみようくらいの気持ちでしたが、日報のリプレースを行うと、オンプレミスの既存のシステムの問題を解決できたので、ExcelやAccessで管理していたものも次々とkintoneに置き換えていきました」(稲葉氏)
稲葉氏を含むアセットソリューション事業推進部のメンバーで、販売の進捗管理や物件のデータベース、会議の案件管理一覧、スケジュール管理といったアプリを作成しました。
kintone活用は進んだものの、使っているうちに基本機能だと物足りなくなってきました。そこで、kintone関連の開発会社に個別開発を依頼しました。必要な機能が出るたびに、JavaScriptで作ってもらっていました。
「アプリ間のデータ連携といった必要な機能を実装することはできたのですが、そのメンテナンスまでなかなか手が回りませんでした。そこで、極力手間を省くために、プラグインを色々と買い漁ったのです。しかし、複数のプラグインを入れることで、競合してうまく動作しない問題も出てきました」(稲葉氏)
実は、プラグインを導入する際、カスタマインも候補に入っており、前任者が試用したことがありました。しかしその時は、カスタマインは使いこなすのが難しい、という判断で他のプラグインを選ばれたそうです。
プラグインの課題をどうにかしなければならない、と考えた稲葉氏はサイボウズ株式会社が年に1度開催する「Cybozu Days」に参加しました。そこで、カスタマインのブースに立ち寄りました。
「カスタマインはできることのバリエーションが豊富なので、すぐに導入を決意しました」(稲葉氏)
早速無償で使えるフリープランに登録したのですが、実際に使ってみると、最初は少し難しく感じました。一般的なプラグインと異なり、カスタマインでは動作する条件を一つ一つ設定する必要があります。そこで役立ったのが「カスタマイン」のテンプレート集です。イベントで入手したこの冊子を読み、試行錯誤したおかげで、様々なシチュエーションで活用できるようになりました。
2020年にいよいよ基本機能や既存のプラグインでは対応できなくなったため、「カスタマイン」を正式導入することになりました。これまでも、個別開発をしたり、複数のプラグインを買ったりしていたので、上司へは「カスタマインを入れることで、もうこれ買ってください、あれ買ってくださいと頼むことはなくなります」と説明してOKをもらいました。
■GISや反社チェックのシステムまでkintoneで構築した
不動産を管理するためにGIS(Geographic Information System)が必要になりますが、これも従来はオンプレミスのシステムを利用していました。不動産開発の場合、一般的な小売りと異なり、土地や建物を売るよりも購入するほうが大変です。実際、営業担当もほとんどが土地や建物を仕入れる業務を担当しています。
「仕入れ競争が重要なので、地図上でどこが買えそうなのか、このエリアなら価格はどのくらいか、といった目星をつけておきます。その際に必要になるのが正確な緯度経度情報を持った地図です。それまで使用していたオンプレミスのシステムでは、この地図の描写がとても遅く、コストもとても高かったのがネックでした」(稲葉氏)
そこで、地図を描写できるプラグインを導入し、GISも「kintone」に移行することにしました。また、不動産業界は複数の担当者が同時に1つの物件に対して案件を持つことがあります。オーナー経由だけでなく、異なる仲介業者と話を進めることもあるので、レコードに登録される情報がとても多くなります。そこで「カスタマイン」を利用し、タブ表示することで視認性を向上させました。
案件と物件のkintoneアプリが別々にありますが、その一部のデータを連携させる必要があります。例えば、一口に「価格」と言っても「売り出し価格」と、「購入を希望する価格」と、「実際に買った価格」など、5種類の価格があります。それぞれの価格に、土地や建物、面積で割った単価といった価格や利益率も紐づいています。それらを進捗に合わせて、どのデータをどのデータベースに連携する、といった細かい分岐も「カスタマイン」で作りこんでいるそうです。
情報の入力ミスを防ぐための工夫も「カスタマイン」を活用しています。例えば、建物と土地の両方を管理するアプリには「RC造」など建物の構造を指定するフィールドがありますが、土地のレコードもあるので入力必須にはできません。ですが、建物のレコードには必ず入力してもらう必要があります。そこで、「カスタマイン」の条件付き必須チェックを利用しているそうです。
物件を購入する際には、反社チェック(コンプライアンスチェック)も行います。一般的な企業であれば、1つの取引先をチェックするワークフローを作ればいいですが、不動産の場合はそこに住んでいる人全員のチェックが必要です。マンションなどであれば50人、100人の申請が必要になりますが、申請の数だけアプリを操作するのは面倒です。
そこで、チェックしたい人をテーブルにまとめて入力し、WebhookでJob Runnerを走らせて、テーブルの中身をレコードに変換し、それぞれのレコードでチェックを行っています。
■kintoneとカスタマインをセットで活用することで仕事の質が高まった
kintoneの基本機能だけだと、「それならオンプレミスのシステムのまま運用を変えたくない」という反応があったものの、「カスタマイン」でUI/UXを工夫することでオンプレミスからの移行やペーパーレス化が進みました。特に、「カスタマイン」を導入したことで、紙帳票を電子化するケースが増えました。
「ちょっとした細かいところの使い勝手を落とさずに移行できたのがよかったです。ペーパーレス化も進んでおり、2018年ごろと比べると8割くらい削減できました。残り2割ですね」(稲葉氏)
現在同社では、誰でもアプリ作成が可能なルールで運用しています。取っ付きづらさをなくしたいというのが理由です。従来の情報システム部門だと、一定のITスキルがないと業務アプリの作成を認めない、という考え方になりがちですが、色々難しいこと言われるとやる気をなくしてしまうこともあります。アプリを作るだけなら致命的なリスクは起きないので、どんどんチャレンジして欲しいと考えています。ちなみに、稲葉氏は2022年から、情報システム部門にあたるDX推進本部に異動しています。
稲葉氏が作ったアプリを見て、若手の社員が自分も作ってみたいと手を挙げてくることがあります。「kintone」アカウントだけでは作れないので、「カスタマイン」のアカウントも渡すのですが、使い方を教えるまでもなく、すぐに吸収してしまいます。稲葉氏の思いつかない方法でアプリをカスタマイズすることもあり、逆に勉強になる、と稲葉氏は満足げです。
「カスタマインのおかげで皆の仕事の質が高くなりました。アプリの設計を考えるときに、一歩引いた視点で物事を見られるようになり、業務の粒度が上がったのです。話していても、カスタマインを使っている若手は視座が高いな、と感じることが増えました。kintoneはカスタマインがないと活用しきれないので、もはやセットです。当たり前にあるような感覚で、もう手放せないですね」(稲葉氏)
最後に今後の展望を伺いました。
「カスタマインを使ったカスタマイズは一通り実現できたので、これからはカスタマインを使える人を増やしたいと考えています。残り2割のペーパーレス化も進めたいですね。また、会社としてもDXには力を入れていて、不動産をデジタル証券化したり、マーケティングオートメーションでデジタル広告を配信するような新事業も立ち上げる予定です。そんな中で、ここはkintoneにしよう、ここは別のツールを使おう、などと検討しているところです」と稲葉氏は語ってくれました。
取材日2024年1月