公開日:2018-08-21
事業の柱を支えるアイテムデータベースをkintoneに移行はじめてのリモートでのプロジェクト進行であったがスムーズに
【課題】品質担保の柱となるシステムの保守継続が困難に
住まう人が本当に心地よいと感じられる、日本の風土気候に適した住まいづくりを目指すヤマダ・エスバイエルホーム(注1)。1951年に創業し、1967年に工業化住宅に着手して以来、一邸一邸の異なる設計に対応した構造部材を自社工場で製造。高品質を確保しながら生産効率も高めることで、安心、安全の注文住宅を高いコストパフォーマンスで提供し続けています。現在は、株式会社ヤマダ電機との資本・業務提携を経て、株式会社ヤマダ・エスバイエルホーム(以下、SxL)として、12の支店と全国の販売代理店を通じて、日本中に快適な住まいを届けています。同社の強みは、型式適合認定を受けた部材を使用し、木質接着パネルを使用したSxL工法で住宅を建築することにより、個別の構造計算をすることなく品質が担保できる点です。「どの部材を使いどのように施工すればSxLの住宅として品質を担保できるのか、年々新しく登場する建築工法、建築部材を吟味することが重要です。ときにはメーカーと共同で部材や工法を開発することもあります」と、株式会社ヤマダ・エスバイエルホーム 管理本部 システム管理部の蒲田 久紀氏は言います。
各支店や代理店では、営業担当者が顧客の要望を聞き、設計担当者が社内で標準化された部材を使って住宅の設計を行います。その際に重要なのが、すべての設計・施工担当者が最新の設定品を正確に把握できるようにしておくことです。そのために同社で使われていたのが、アイテムデータベースです。どのような部材があるのか、どのように施工すれば設計通りの仕様を担保できるのか、すべての情報がそこにまとめられています。年に1回程度、アイテムの改廃のたびにアイテムデータベースも更新します。しかも、過去に建築した住宅のメンテナンス時には、当時の部材や施工方法を参照しなければならないので、古い情報も削除できません。アイテムデータベースの情報は増える一方で、減ることはありません。創業から60年以上の歴史で積み上げてきた建築部材吟味の歴史が詰まった、SxLを支える重要なシステムのひとつです。そんなアイテムデータベースが、存続の危機に立たされました。システムを開発したベンダがパッケージ製品に特化したビジネスに舵を切っていたため、サーバ保守期限切れを前にシステム更改への対応が難しくなったのでした。これに対して既存システムを開発したベンダが提案したのは、サイボウズ社のノンプログラミングアプリ開発プラットフォーム「kintone」でした。開発面においては、kintone上でのシステム開発を得意とするアールスリーインスティテュート(以下、アールスリー)を紹介され、データ移行時の協力体制も整えることになりました。
【選定と開発】綿密なWeb会議で距離を感じさせないkintoneアプリ開発
サイボウズ社が提供するkintoneは、ノンプログラミングでアプリを作成、利用できるクラウドサービスです。ITの専門知識がないユーザーでもアプリを作れるように工夫されており、簡単なアプリであれば利用現場で社内開発が可能です。SxL社内でも一部でkintoneを使っており、自社に資産を持たなくて済むクラウドの利便性、データベースとしての使い勝手の良さや開発の簡単さを蒲田氏は知っていました。それでもあえてアールスリーに開発を依頼したのは、「その方が結果的に多くのメリットがある」と考えたからでした。
現在は群馬県高崎市に本社を置くSxLですが、以前は大阪府大阪市に本社を置いていました。その当時、アールスリーからシステム開発の提案を受けたことがあったと蒲田氏は振り返ります。「その当時は他に優先すべき案件があったのでお世話になることはなかったのですが、規模の大きいベンダとは違って小回りが利き、細かい要望にも応えてくれそうな企業だと印象に残った」そうです。そうしたアールスリーへの期待感に加え、自社で開発するよりもプロフェッショナルに依頼した方が短期間で開発でき、結果的に工数もコストも低く抑えられるだろうという目論見もありました。実際の開発は、大阪にあるアールスリーの開発拠点、SxLの高崎本社と大阪拠点との3拠点でWeb会議を中心に進められました。既存システムがあったこともありますが、kintoneならではの開発スタイルのおかげでWeb会議だけでもストレスなく開発を進められました。「とにかく色々な要望を伝えるだけ伝え、実現の方法を考えてもらってアプリに反映していきました」と蒲田氏が振り返る通り、kintoneではまずたたき台となるアプリを作成し、そこに機能を盛り込んでいくことで開発を進めていけます。アプリの動作が要望に応じてその場で変化するので、離れた場所にいてもコミュニケーションの齟齬が生まれにくいのです。「kintoneの仕様上実現できなかった機能を、代替案を提案してもらい解決した事もありました」と蒲田氏が振り返るのは、個別アイテムにひもづく添付資料が時系列で並ぶ画面。従来のシステムでは最新の資料が画面上部に表示され、画面をスクロールするほど古い資料が表示されていました。kintoneでは資料を登録した順番でしか表示できないので、新旧の並び順が逆になってしまうのです。これをアールスリーは、サブテーブルとして資料へのリンクを表示、最新かどうかといった資料の状況や資料の更新日時を表示することで、どれが参照すべき最新の資料なのかわかりやすく表示する工夫をこらしました。
株式会社ヤマダ・エスバイエルホーム 設計・施工管理部の安部文子氏は全体のやりとりについて「ITに詳しくない私でもわかりやすく進めてもらえて助かった」と評価しています。特に安部氏の評価が高かったのは、アールスリーから提供された開発スケジュールなどの各種資料類です。一般的にエンジニア目線で細かくなりがちな開発スケジュールを見やすく整理し、開発ステップごとにSxL側が対応すべきことが明確になっていました。「その他の資料類も技術的な細かさよりもわかりやすさに力点が置かれていて、そのまま社内の関連部署への説明に使えたほどです」と資料について語る安部氏。おかげで社内調整用に資料を再度まとめる手間が省け、開発のスピード感を損なうことなく進められたと言います。
【運用に向けた移行と効果】拍子抜けするほどスムーズな移行
実際の開発にかけた時間は、2018年2月から3月にかけての約2ヵ月。ハイスピードSIを身上とするアールスリーの開発体制と、離れた場所にいても共に画面を見ながらアジャイル開発が可能なkintoneが組み合わさって短工期が実現しました。しかも、約2ヵ月の工期のうち約1ヵ月は既存システムからのデータ移行に費やされるため、アプリ構築は1ヵ月で完成しました。データ移行では、先に書いた通り過去の添付ファイルデータが膨大な量で、かつ1レコードに複数のPDFファイルが添付される仕様になっていたため、そのための移行プログラムを作成する必要がありました。既存システムの開発ベンダとアールスリーが協働し、移行のための仕様を検討、試行錯誤を重ねて、それぞれデータ書き出しプログラムとデータ読み込みプログラムを作成しました。移行期間中はデータ更新ができなくなるため、テストを重ねた上でデータ移行の日程を綿密に調整し、最小限の日数でデータ移行を完遂したのです。安部氏は「システムに新たなデータを登録できない期間が短くて済んだ」と言い、日常業務への影響も最小限に抑えられたことを教えてくれました。
こうして完成した新しいアイテムデータベースは、2018年4月から本格稼働を開始。これまでにいくつかの新システム稼働やシステム更改を経験してきた蒲田氏、安部氏は、新アイテムデータベースを社内に公開する日を緊張とともに迎えたと言います。「過去のシステム移行では、移行日には他の仕事が手に付かないくらい問い合わせがあったので、今回も他の予定は入れないようにしていた」と両氏は語ります。しかしその日、支店や代理店からアイテムデータベースの使い方についての問い合わせや、使い勝手に関する苦情の連絡はありませんでした。「本当に使われているのかどうか不安になった」という安部氏。心配のあまり支店に使い勝手を確認したところ、「問題なく使えているので特に問い合わせることもなかった」とのこと。緊張して移行日を迎えたものの、「多数の問い合わせを覚悟していたのに、拍子抜けした」というほど、新システムはスムーズに利用者に受け入れられたのでした。新システムでは、アカウントごとに権限を振り分けています。支店や代理店からアイテムデータベースにアクセスした場合には、検索と閲覧のみ可能。新しいデータの追加や更新は、本部担当者のアカウントでのみ可能になっています。こうした適切な権限管理により、セキュリティとともにデータの真正性も担保しました。
【今後の展望】支店とのコミュニケーションなどでkintone活用を模索
今回はkintoneの基本機能とも言える、データベース機能を中心にしたシステムの導入に成功したSxL。検索機能を含めデータベースとしてのkintoneの使いやすさと共に、コミュニケーション機能にも蒲田氏は可能性を感じているようです。「支店や代理店に向けた資料配付などに使えるのではないかと考えています」と言い、試験的にコミュニケーションスペースを運用してみていると明かしてくれました。データベース機能、コミュニケーション機能ともに、社内の他の業務で特性が合うシーンがあれば活用が広がって行きそうです。基本機能だけで簡単にアプリを作れるだけでなく、プラグインの利用やJavaScriptを使ったカスタマイズで細かい要望にも対応できるのがkintoneの強みでもあります。しかし蒲田氏は複雑なカスタマイズには慎重な姿勢を示しました。SxLはITが本業ではなく、ITに詳しくない担当者に引き継ぐ可能性も考えられます。蒲田氏自身がJavaScriptを使ってカスタマイズできたとしても、属人的な能力に頼らざるを得ないシステムを抱えたくないと考えるのはしかたないことでしょう。ただし、kintoneの基本機能と同じようにGUIで管理できるのであれば話は違うようです。取材時(2018年7月)にはプレビュー版を公開中だったgusuku Customineを紹介したところ、興味をもっていただけました。今後、gusuku Customineを使ってカスタマイズされたアプリが、SxLで活かされるかもしれません。
注1:2018年10月1日付で社名を「株式会社ヤマダホームズ」に変更。