ササキセルム株式会社様 事例紹介

公開日:2024-12-19

在庫管理の未来を拓く!kintoneとカスタマインで紙台帳を電子化

ササキセルム株式会社
管理部 経理総務課 兼 社内システムチーム リーダー 大津 慎一 様
テキスタイルデザイナー 鬼頭 忍 様

ササキセルム株式会社は愛知県一宮市に本社を構え、毛織物の一大産地である尾州の毛織物をメインに扱う生地の商社です。昭和12年に佐々木商店として創業し、87年の歴史を持つ老舗で、1992年に現在のササキセルムに社名を変更しました。現在は一宮の本社と配送センターに加え、東京営業所や中国上海に展開しています。

長い歴史の中、紙の台帳で生地の仕入れと販売を管理してきました。一抱えもある大きな台帳には、必要な情報が一覧できるように工夫されています。しかし、複数の人がすべて手書きで書き込むため、様々な課題が発生していました。

近年、デジタル化にチャレンジするもうまくいかず、悩んでいたそうです。台帳とはいっても、反物を扱うのでイレギュラーケースが多く、簡単にはデジタル化できなかったためです。しかし、在庫がないのにもかかわらずそれを把握しきれず受注してしまうと言ったトラブルも発生し、デジタル化待ったなしという状況になりました。

そんな中、2021年にkintoneとカスタマインを知り、試用の後に正式導入し、業務の一部を置き換えることができました。今回は、超アナログな台帳をkintone×カスタマインでデジタル化した経緯と導入効果について、管理部 経理総務課 兼 社内システムチーム リーダー 大津慎一氏とテキスタイルデザイナー 鬼頭忍氏に伺いました。

左)大津氏 右)鬼頭氏

■紙での管理でよくある課題が山積していたのでkintoneとカスタマインを導入

ササキセルムでは、これまで20冊ほどある紙の台帳で生地の管理をしていました。仕入れや受発注の情報を台帳に書き込んでいたのですが、当然、一つの台帳では同時に一人しか作業できません。そのため、同じ台帳の生地に関する問い合わせの電話がかかってきた場合などに、対応できないという課題がありました。在庫の有無も台帳を見なければわからないため、取り合いが発生していたのです。

台帳を管理されている本棚と使用されている紙台帳

また、管理担当が決まっているというわけではなく、皆が触り、書き込んでいる点も課題でした。ある程度ルールは決めていたのですが、その通りに書き込まれないことがあったのです。それぞれのマイルールがあり、少しずつ在庫数にずれが発生していました。

「在庫数のずれをなくすために、定期的に台帳をリセットしていました。季節性の製品が多いので、半年に1回くらいの間隔です。実際にある在庫を倉庫や仕入れ元に確認し、新しい紙で再開するのです。元の紙はとりあえず残してありますが、データは埋もれてしまう状態でした」(大津氏) 

手書きのため、字が崩れていると他の人が判別できない、もしくは判別するのに時間がかかるという問題もありました。台帳には仕入れた生地の反数(生地の量を表す単位)とその生地の受注した反数を記入します。在庫数を確認する時には記入された反数を引いて計算していくのですが、書いてある数字を読み間違えて計算するといったミスも起きていました。

台帳での受発注の管理に加え、在庫の明細も別の表で管理しており、同時に同じ内容を書くという手間も発生していました。人によっては、片方を書き忘れてしまうこともあったそうです。もちろん、『どうにかしなければならない』という課題意識は以前からありました。しかし、何度かデジタル化にチャレンジしたものの、実現しませんでした。

左)紙台帳 右)在庫の明細表

大津氏はもともと営業部で7年間働いており、その間は台帳を使っていました。その後、大津氏が管理部に異動することになり、営業経験がある上に、デジタル化に積極的な人材が来たということで、改めて台帳のデジタル化プロジェクトが始動することになりました。

当初、基幹システムの開発を依頼した開発会社に台帳のシステム開発を依頼しようと考えたそうです。そこで、簡単なデモを作ってもらったのですが、費用がとても高くなることが判明しました。さらに、そのデモでは期待する機能を網羅できておらず、断念することになったのです。

ササキセルムは以前から、台帳以外の部分でのDXには積極的に取り組んでいました。経費精算や勤怠管理のデジタル化が進んでいたのです。その動きの中でサイボウズのイベントに管理部の人たちが参加し、kintoneを知りました。ノーコードで内製でき、導入費用もお手頃価格ということで、2020年に試用することになったのです。

「kintoneの無料お試しをしているときは、外部の詳しい方に相談しながらアプリを開発しました。台帳の運用方法を説明すると、その使い方をしたいならカスタマインが必要になるとアドバイスをいただき、カスタマインの検証プランも試してみることにしました」(大津氏)

検証する中で、実業務で使えそうなアプリができたので、正式にゴーサインが出て、kintoneとカスタマインを契約することになりました。2021年3月のことです。

■ユーザーに活用してもらうためにカスタマインで使いやすく工夫する

紙の台帳を電子化するにあたり、4つのアプリを開発しました。発注用と受注用、閲覧用、そしてデータを溜めるためのアプリです。これらのアプリ間で、レコードを更新するためにカスタマインを使っています。受注・発注用アプリのテーブルに入力されたデータを分解して、データ保管用アプリに保存する仕組みが必要だったためです。

「在庫として保有している反数を管理する際に、例えば、現物で在庫があるもの、発注はしているけど加工中のもの、別の倉庫にあるものなど、ステータスが異なるデータが混在しています。それぞれで、この場合はこの数字から足し引きするといったことをカスタマインで条件分岐させて計算させています」(大津氏)

アプリ開発でこだわったのは、ユーザーの使い勝手でした。紙に慣れ親しんでいるので、ITツールを使うハードルはとても高く、使ってもらえないリスクがあります。そこで、受注・発注用アプリで情報を入力する際に、入力が必要なフィールドが順番に表示されるようにカスタマインで設定しました。具体的には、生地の品番を入力すると、受注日や得意先のフィールドや生地の色明細のテーブルが表示されるようにしたのです。

他にも、社員さんの要望を受けてカスタマイズをした部分もあります。例えば、一気に画面の一番上までスクロールできるボタンを配置しました。生地の色の数が多いとアプリが縦に長くなるためです。

「カスタマインは使い勝手を良くする部分で多用しています。ITツールに苦手意識を持たれている方にも寄り添って、使ってもらいやすいように見え方だったり、作業性に気を付けています」(大津氏)

 

左上)発注用アプリ 左下)データ保管用アプリ 右)閲覧用アプリ

発注明細テーブルをデータ保管用アプリへ1レコードずつ登録するカスタマイズ

こうして大津氏が主体となって作成したkintoneアプリについて、業務担当である鬼頭氏は次のように語ります。

「これまでの台帳と見え方はちょっと変わってしまったので、違和感はありますが、私は慣れだと思っています。1番いいのは計算ミスがない、というところですね。私が台帳で見たいのは、フリー(出荷可能)の反があるかどうかです。これがぱっと見られるのが最大のメリットです。問い合わせがあった時に、誰が見ても同じ答えを言えるのが素晴らしいと思います」(鬼頭氏)

電子化したことで、外出先から閲覧できるというメリットもありました。従来、出先や出張先からデータを見たい場合、会社に電話をかけて、社内にいる人に台帳を見てもらっていたのですが、電話を受けている人の手がふさがってしまうので負担が大きかったそうです。スマートフォンでkintoneを開けば確認できるようになったのは、大きな改善ポイントとなりました。

スマートフォンで在庫を確認

台帳以外では、展示会用のアプリでもカスタマインを活用しています。毎年、アパレルメーカーやアパレルブランドが多数集まる展示会があり、ササキセルムも出展しているそうです。そこで、多数の生地見本を展示し、新商品の宣伝や商談を行います。その際に、生地のサンプルの送付を求められることがありますが、その作業が大変でした。

「大量に商品がある中で、お客様に『これとこれとこれのサンプルをください』、と言われます。それぞれの品番を紙に手書きして、会社に帰ってきてからそれをExcelに打ち込み、サンプルが何部必要なのかを集計していました。手書きだと現地でバタバタしますし、書き間違いもありました。集計がすぐにできないのも不便です。そこで、スマートフォンで簡単に入力できるようにしました」(大津氏)

それぞれの生地にQRコードを紐づけ、従業員が接客しながらスマートフォンで読み込むことで、手軽にデータ化できるようにしたのです。手書きの手間がなくなりますし、文字が読めないということもありません。リアルタイムで集計でき、帰社後の作業からも解放されました。

「細かいところだと、テーブルの行増減ボタンを非表示にしています。後で希望いただいたサンプルのリストを帳票印刷するので、適当に行を追加されると空欄ができてしまうからです。カスタマインでQRコードを読み取ると、希望された生地の品番が入力された行を自動で追加するようにしています」(大津氏)

営業畑出身の大津氏が、いきなり台帳という複雑なシステムをアプリ化するという挑戦を成し遂げたのは大きな成果です。しかし、最初からスムーズに作れたというわけではありませんでした。

「実は、プロジェクトの初期は、アールスリーのカスタマーサクセス担当者と打ち合わせをするのが憂鬱でした。kintoneもカスタマインもノーコードとはいえ、最初は難しく感じて、しばらくは手つかずだったからです。しかし、いつかはやらなければいけないので期限を決めて、真面目に取り組んだところ、徐々に楽しくなってきました。わからないところをチャットで質問したりして、使い方がわかってくるとどんどんできることが増えて、ブレイクスルーした感じです。カスタマインでのカスタマイズが思い通りに動いた時はすごく気持ちがいいですよね」(大津氏)

最後に、今後の展望を伺いました。

「台帳を電子化することで、データを溜められるようになったのも大きなメリットです。これまで、ベテランの肌感でそろそろ注文しよう、と判断していたところを、データを分析して効率的な生産計画が立てられます。他の台帳も電子化していこうと思います」(鬼頭氏)

「まだまだ置き換えられるExcelがたくさんあると思っています。ただ、今までのやり方をすぐに変えるのは、なかなかエネルギーを使いますし、抵抗感を示す方もいます。できるだけ簡単な作業からkintoneを使ってもらい、慣れてもらおうと考えています。その時、見やすくしたり、入力方法を誘導しようとすると、kintoneの基本機能だとできないことが多いです。そこでカスタマインをフル活用していきたいと思っています」と大津氏は語ってくれました。

取材日2024年10月