公開日:2024-04-12
約7,000時間の業務効率化を達成!秘訣は企業文化に合わせたルール策定とユーザー目線の教育
西日本鉄道株式会社
DX・ICT推進部 働き方改革担当 課長 濱邊 直人 様
働き方改革担当 係長 伊藤 剛 様
働き方改革担当 吉富 由華 様
西鉄情報システム株式会社
西鉄グループICT推進本部 ICTサポート部 情報活用担当課 永渕 靖明 様
西日本鉄道株式会社は、鉄道やバスなどのモビリティ事業で知られる西鉄グループの中心となる企業です。西鉄グループでは、運輸事業をベースに不動産やホテル・レジャーなどあらゆる事業を多角的に手掛けています。
2035年度を目標年次とする長期ビジョン「にしてつグループまち夢ビジョン2035『濃やかに、共に、創り支える』」を策定し、「居心地よい幸福感あふれる社会」の実現を目指しています。
この長期ビジョン達成のため、デジタル技術を活用した業務改革・生産性の向上や、コミュニケーションツールを活用した組織風土の改革に力を入れて取り組んでいます。こうした取り組みの1つとして、kintoneとgusuku Customine(以下、カスタマイン)を活用し、年間約7,000時間もの業務効率化に成功しています。その効果を生み出した西日本鉄道株式会社 DX・ICT推進部濱邊直人氏、伊藤剛氏、吉富由華氏、西鉄情報システム株式会社 永渕靖明氏の4名に、お話を伺いました。
内製化・コスト・機能を満たせるkintone
kintone導入以前の同社では、事業部がシステムで課題解決したい場合、DX・ICT推進部に相談していました。DX・ICT推進部では、相談内容に応じて西鉄情報システム株式会社で開発したり、パッケージを購入して導入したりするといった対応をしていました。
「業種や業態が幅広いので、我々が細かな業務内容や課題を把握することに時間がかかりました。DX・ICT推進部のリソースが限られているため、対応に苦労することもありましたね」と濱邊氏は当時を振り返ります。
これらの課題を解決するため、「内製化:気軽に業務に使える操作性」、「コスト:導入障壁となりうる費用をいかに抑えられるか」、「機能:現場に蔓延る諸課題を柔軟に解決できるか」の3つを満たせるツールを検討しました。
DX・ICT推進部内で様々なツールの情報収集を進め、グループ内で導入実績があることや、内製化・コスト・機能の要件を満たすのではないかと考えたことから、kintoneに挑戦することにしました。
ルール策定とユーザー目線の教育で現場に浸透
kintoneの導入と定着のため、DX・ICT推進部では特にルール策定とユーザー教育に力を入れました。
まずは、統制をとるためにルール策定を行いました。
「最初にルールをしっかり定めたのは企業文化を考慮してのことでした。現場の中にはITリテラシーが高くない人もいるので、最初に厳格化しておく必要があると考えました。運用が始まってから厳しくするのは現場の不満に繋がりますが、緩和していく方が現場が混乱しにくいと考えたんです」(濱邊氏)
策定したルールの一例として、開発と本番でスペースを分けることが挙げられます。
開発スペースでは、各事業部で現場の方が事前申請の必要なく自由にアプリを作成することができますが、本番スペースとして運用する場合はDX・ICT推進部に申請が必要となっています。
「まず、どなたでも業務改善にチャレンジできるように開発スペースでのアプリ作成は自由にしています。一方で本番スペースに移行する際には、DX・ICT推進部が規則に則ったアプリになっているか、どれくらい業務効率化されるのか、セキュリティの設定などを確認してからの運用になります」(伊藤氏)
次に、教育コンテンツの作成に取り組みました。
企業文化を踏まえてルールを策定したものの、ルールで縛っているだけではkintoneの利用は広がりません。そこで、DX・ICT推進部では本番運用を始める前に様々な教育コンテンツを用意しました。サイボウズ社やパートナーが作成した資料や動画はいくつか見つけられたものの、さらにコンテンツを追加する必要があると考えました。西鉄グループのユーザーのITリテラシーに合わせて、アプリの開発の仕方や各種プラグインの説明などの資料や動画を独自で作成し、専用のポータルサイトに掲載しています。掲載している資料や動画は、各事業部の人がいつでも閲覧・学習できるようになっています。これにより、ルールで統制をとりながらも、ユーザーが自発的に業務改善に取り組める環境が準備できました。
ルールや教育コンテンツの準備が整い、2022年より本格導入することになりました。同時に、社内セミナーなどの教育スケジュールも発表し、各部署で使っていけることを周知していきました。
DX・ICT推進部は、現在も業務改善相談会やkintoneの操作方法に関する研修を、毎月の頻度で行っています。
属人化を避けるためには、絶対に必要なカスタマイン
テスト運用の時点で、やりたいことの中にはkintoneの基本機能では解決できないことがありました。そこで、JavaScriptを使用したカスタマイズを試みました。
DX・ICT推進部のメンバーが使っているテスト運用段階だったので、JavaScriptでのカスタマイズで解決できました。しかし、このまま現場の人へもJavaScriptでのカスタマイズを許可してしまうと、属人化してしまったりメンテナンスの手間がかかったりする、という問題が見えてきました。そのため、JavaScriptでのカスタマイズによる本番運用は現実的ではない、という判断に至りました。
悩んだDX・ICT推進部では、どうにかする方法がないかと調べました。サイボウズ社に相談したり、既にkintoneを導入・活用している他のユーザー企業と情報交換を行ったりしたところ、多くのエンタープライズ企業で導入されているカスタマインの存在を知りました。
カスタマインはノーコードで様々なカスタマイズができることを知り、「JavaScriptでのカスタマイズが使えないならば絶対にカスタマインが必要だ」と考え、導入することにしました。
年間約7,000時間の業務効率化を達成!
kintoneとカスタマインを導入し本番運用して2年経つ同社に、業務改善効果の大きいアプリやカスタマイズについて伺いました。
ルールを守るためにkintoneアプリを活用して管理
策定したルールを守りながら運用を進めていく中で、ユーザーがより安心してkintoneアプリを作成、活用していけるようにアプリを管理するための仕組みを作りました。具体的には、アプリ名、所属スペース、レコードの最終更新日、レコード数、アプリ作成者・管理者、アプリ作成日等を管理することができるkintoneアプリを作成しました。(これを「アプリ管理アプリ」と呼びます)
この「アプリ管理アプリ」を使って、策定したルール通りに運用されているかをチェックするためのカスタマイズを作成しています。
同社では、開発スペースと本番スペースを分けて運用しており、開発ルールが異なるため棚卸しのルールも分けています。
具体的には、
- 開発スペース:全てのアプリ
- 本番スペース:最終更新日から2か月以上経っているアプリ
を棚卸し対象としています。
「アプリ管理アプリ」では、上記の棚卸しルールに沿って一覧画面で棚卸し対象アプリのレコードに、色がついて表示されるようにカスタマイズしています。
さらに、これらの棚卸し対象のアプリがある場合には、メールでアプリの棚卸し依頼の通知がアプリ作成者・管理者に送られるようにカスタマイズしています。
「当初ルールとして定めた開発スペースと本番スペースを分けた運用でまもなく2年が経ち、どちらもアプリの数が増えていっています。kintoneのアプリ数の上限は1,000個と決まっています。特に開発スペースはkintoneのアカウントを持っていれば誰でもアプリ開発に挑戦できるため、放っておくとすぐに 1,000 個を超えてしまいます。そのため、定期的に不要なアプリを削除する棚卸しが必要になってきています。現在はそのためのカスタマイズを作成していて、2024年度から運用開始したいと思っています」(吉富氏)
西鉄グループの多くの事業を支えるカスタマイズ
西鉄グループでは、新規事業・新サービスの創出にも力を入れていますが、ここでもkintoneとカスタマインが活躍しています。
新規事業創出プログラム「X-Dream」では、西鉄グループ社員から新規事業のアイデアを募集し、選考を繰り返して事業化するものが選ばれます。
「X-Dream」に応募するためのエントリーシートはフォームブリッジ(トヨクモ株式会社)で作成されていて、エントリー内容はkintoneアプリに蓄積されるようになっています。年間60〜70件の応募があるため、事務局が審査する際に1つずつレコードを開いて確認するのは手間がかかりました。
そこで、カスタマインのExcel出力機能を活用しています。数十件のエントリーシートを一覧で見やすいように出力しています。
また、住宅事業本部では戸建住宅や分譲マンション、シニアマンションなどの管理施設と本部とのやりとりに、kintoneとカスタマインを活用しています。
10を超える管理施設と本部とのやりとりは、フォームブリッジとメールで行っています。本部から施設にメール送信する際には、都度送信先の施設が異なるため、スムーズに送信できるように自動で送信先のメールアドレスがセットされるようにカスタマイズしています。
さらに、施設とのやり取りの内容を本部内で素早く共有できるよう、カスタマインでMicrosoft Teamsへ通知もしています。
現場での自走を支える丁寧な教育
kintoneの導入時にコンテンツを中心に教育を行っていた同社ですが、カスタマインの教育は一人ひとり丁寧に研修を行っています。
「カスタマインは実現できることが幅広く、使い方を間違えると誤ったレコード更新などもできてしまうため、しっかりと研修を受けてから触ってもらうようにしています。また、同様の理由で、ある程度ITリテラシーの高い人を中心に研修を行っていますね」(永渕氏)
ユーザー目線に合わせた研修用資料を独自で準備し、以下のような内容を研修しています。
- どういった課題が解決できるのか
- 最初に引っかかりやすいカスタマイズ
- 簡単なカスタマイズの作り方
- 注意点
- 演習
こうした基礎を理解してもらってから、カスタマインの提供元であるアールスリーのYoutube動画も見て学んでいくという流れになっています。
「アールスリーさんの動画はよく勉強になって助かっていますね。Youtubeで調べる、勉強するという文化はこれまでなかった最近のものなので、これから広めていきたいですね」(伊藤氏)
DX・ICT推進部と事業部が手を組んで、さらなる業務改善へ
様々なアプリを運用しながら開発を進め、業務改善に取り組んだ結果、kintone導入前と比べて年間約7,000時間の効率化を達成しています。
そんな西日本鉄道株式会社 DX・ICT推進部の皆様に、今後の展望について伺いました。
「まだまだ現場に業務課題はありますが、kintoneで解決できること自体を現場の人が知らないことも多いです。現場の課題をヒアリングすると複雑なものが多く、解決にはほぼカスタマインは必須となっています。課題と、kintone&カスタマインの活用を、社内でどんどんマッチングして解決していける体制を整えたいですね」(伊藤氏)
「kintoneのアプリ作成はシステム屋さん以外でもできますが、そこから先でつまずいてしまいます。拡張機能でつまずかない教育とつまずいているところをサポートしていきたいです。kintoneだけでなくカスタマインも使える、現場で業務改善できる人たちを増やしていきたいです」(永渕氏)
「現在はまだまだDX・ICT推進部や西鉄情報システム社がやっている部分が多いので、より現場で自走していってほしいですね。そのために必要なことは何なのか、コンテンツを充実させていったり、DX・ICT推進部が現場と連携を強めて教えていったりしていくことを考えています」(濱邊氏)
各事業部の中で、特にITリテラシーの高い人を中心に、1人ずつでもkintoneとカスタマインを使いこなせる人を育てていくことを目指しています。そのために、やる気のある人が学習できるツールやコンテンツを作成するなど、DX・ICT推進部がリードしていきます。
「各事業部でまずは1人業務改善できるようになることで、そこから事業部内で広がってさらに大きな業務改善へ」と、良いサイクルを目指していきます。
取材2024年2月