公開日:2024-12-20
使いやすさと使う楽しみをカスタマインで実現!アナログだった家具製作現場を変えた新入社員
有限会社アートワークス
家具プランナー 宗政 伊織 様
有限会社アートワークスはフルオーダーで家具を作る製造業で、1995年創業、2024年で29周年を迎えます。木製雑貨から住宅の食器棚、壁面収納、店舗の什器や造作窓枠まで幅広く手掛けているのが特徴です。兵庫県神戸市の灘高架下に工房を構えており、社員は社長と設計担当が2人、職人が5人の8人となっています。
家具製造業界は超アナログな業界です。家具職人というと高齢の方が多いイメージがありますが、アートワークスの社員は30~50代前半と比較的若い方です。しかし、ご多聞に漏れずデジタル化は進みませんでした。
ただ、家具の注文が増えていくうちに、営業設計のスタッフと製造の職人との間で情報共有がうまくいかず、ストレスが募るようになりました。そこで、2021年から2022年にかけて、kintone導入支援事業を行っている株式会社Be Magical Solutionsに伴走してもらいながらkintoneを導入。その時に入社した営業設計部・家具プランナーの宗政伊織氏がkintoneを担当し、課題を解決していきました。
今回は、アートワークスがデジタルに縁遠かった環境をkintoneでDXし、職人たちにただ使ってもらうだけではなく、満足してもらうシステムを実現した経緯について宗政氏に伺いました。
■紙資料をファイリングする管理では支障が出始めたのでkintoneを導入
顧客から家具の製作を受注したら、宗政氏たち設計担当者が設計し、職人が作るという流れで進んでいきます。従来は、このすべての情報が紙に記載され、ファイリングして管理していたそうです。ただ、紙での管理では設計側と職人側がどんな作業をどのくらいしているのかがわからないのはもちろん、設計担当同士でもお互いが案件をいくつ抱えているのかすらわかっていませんでした。
前入金で作業に着手することが多いですが、入金時期や作業開始時期がいつ頃になるのかわかりません。また、図面を書いて確認してもらった後も、何回修正が入るのかもわかりません。職人側からすると、タイミングによっては設計側からいきなり図面をたくさん渡されることでストレスに感じることがありました。設計側も顧客が要望する納期で職人に頼んでも、手いっぱいで無理だと言われることもありました。そうすると、他の職人に次々と声をかける必要があり、手間がかかります。
ホワイトボードに付箋を貼り付けて案件を管理していたものの、1つの案件で複数のアイテムがある場合などは管理しきれません。それでも、誰が何をするのか、ということだけははっきりしていたので何とか回っていました。
「リピーターのお客様も多いのです。ただ、前回の注文情報はファイリングして図面と一緒に保管しているため、お客様から急に電話がかかってきた時にすぐに見つけられず対応できませんでした。お客様に前回の依頼の時期を聞いて探したり、10年以上経っているとファイルが見つからないこともありました」(宗政氏)
この超アナログ環境を何とかしようと、宗政氏が入社する前にもいろいろとトライしたそうです。例えば、図面をDropboxに保存したり、案件をGoogleドライブで管理するなど、自分たちだけでチャレンジしたそうです。しかし、どれもうまくいきませんでした。社員の人数がそれほど多くないので、大仰なシステムを導入することもできません。とはいえ、データの場所や状況が把握できないという課題は依然としてあり、ストレスは大きくなっていきました。
そんな時、Be Magical Solutionsの稲澤康博氏に相談したそうです。相談した結果、kintoneなら課題を解決できそうだと判断し、稲澤氏に研修や伴走してもらいながらkintoneを導入しました。
この研修中に宗政氏が入社することになりました。特にITの経験はありませんでしたが、kintoneの研修に参加し初めて触って、「パズルみたい」と感じたそうです。まずは基本機能だけでアプリを作成していましたが、「タイムカード」アプリを開発していた時に、どうしても基本機能だけでは実現できないことがでてきました。そこで、稲澤氏に相談したところ、カスタマインを教えてもらったそうです。
「カスタマインを触ってみて、こんなに何でもできるんだ、めっちゃ便利やん、とびっくりしました。タイムカードを基本機能で作ろうと費やした時間はなんだったんだろうと思ったほどです。それでもうカスタマインが手放せなくなって、2022年3月に正式導入しました。このころから、気が付いたら私がkintone担当になっていました」(宗政氏)
「タイムカード」アプリはこれまでシステムになじみがなかった職人にも使ってもらいやすい作りになっています。例えば、見なくていい情報はすべて非表示にしてシンプルにしたり、出勤ボタンはオレンジ・退勤ボタンはグリーンにして選択しやすくしています。また、出勤時刻と退勤時刻は時と分に分解し、10分単位に丸めた上で出勤時間を計算するといったカスタマイズも実装しています。
■職人が木の破片に書いていた発注情報をkintone化した
メインで活用しているのが「案件管理」アプリです。アートワークスでは、金額と作業日数がおおよそ比例していることから、見積金額を元に工数と納品日を計算しています。アプリの一覧画面を開くと、各職人ごとに、対応している作業の工数をガントチャートで確認することができます。
「うちの会社がどのくらいの仕事を受けられるか、というキャパシティを知るためにガントチャートがずっと欲しかったんです。カスタマインでガントチャートを作るのはとても簡単でした。これを見れば、お客様と話す時に、キャパシティがいっぱいであれば『納期がちょっとかかりそうです』と初めに言えるようになります。どの職人の手が空いていて頼めるかどうかもわかりやすいです」(宗政氏)
家具を作る際に必要な材料は職人が各アイテムごとに計算し宗政氏に伝えるのですが、以前は木の破片に書いたものを渡されていたそうです。それを転記し、FAXで送信して注文していたのです。そのため、どの案件にどれだけの材料を使ったのか、そもそも注文しているのかどうか、という状況が何もわかっていませんでした。
「事務所のある2階に職人が上がってくるのも手間ですし、手書きなので誤発注も起きていました。職人がスマートフォンでそのまま発注できるアプリがあれば便利かなと思いました」(宗政氏)
そこで、案件管理アプリと連携して材料の発注を管理する「材料発注」アプリを作成しました。まず設計担当が案件管理アプリ側に必要となる材料名や品番を登録します。材料が必要になったときには、材料発注アプリで案件名と顧客名を選択すると、該当する案件に登録されている材料情報が表示される仕組みです。職人はその表示された材料の中から必要な材料と数量を選択するだけで発注することができるようになりました。
材料発注アプリでは、職人が簡単に入力できるように材料の種類ごとにタブ分けをしています。また、案件によらない材料、例えば『施工用ボンド』などはQRコードを読み込むだけで発注できるようにするといった便利に使ってもらうための工夫がされています。
最近、日報の仕組みも作りました。それまでは紙も含めて日報はなく、定時になったらみんな帰っていく、という感じだったそうです。ただ、それだと誰が何をやっているのかまったく把握できないため、日報のニーズは以前からありました。とは言え、今までやってこなかった面倒な操作を増やすわけにもいきません。そこで、別アプリを用意するのではなく、タイムカードで退勤を打刻する際、一緒に日報も提出してもらうようにしました。打刻時に、カスタマインでその職人が担当の作業一覧をポップアップで表示し、その日手掛けた作業を選択してもらうのです。
日報を提出すると、最後に日替わりで動物の写真が表示され、お疲れ様、と言ってくれます。職人に好きな動物をヒアリングして、象や亀、犬などの写真を宗政氏が用意したそうです。職人からは、「犬を見るために押している」とコメントをいただくなど、ユニークな気配りが大好評です。こうして作成した日報アプリですが、「いきなり使ってね」と言うと抵抗される懸念がありました。そこで、日報の導入前に、タイムカードで退勤を押すと4択のクイズをポップアップさせるようにしました。宗政氏がネットで見つけてきたクイズに回答するもので、退勤する時に、もう一つ操作してもらう抵抗をなくすのが目的です。1か月間ほど慣れてもらい、そのあと慣れた頃合いを見計らって日報に切り替えました。
■kintone活用が進むことで社員全員がストレスから解放された
日報アプリに限らない話ですが、超アナログ環境にkintoneを入れたので、皆がすぐに活用してくれるというわけにはいきませんでした。当初、職人はアプリを開いてもくれなかったそうです。
「正直、kintoneを使わない理由がわかりませんでした。そこで、職人に仕事の進め方を全部聞きました。次に何するんですか、この次はどんなのがあれば便利ですか、と質問しました。新人だったので、聞きやすかったというのもあります。そして、kintoneアプリを直して見せて意見をもらって、また直して、というのを繰り返しました」(宗政氏)
特に言われたのが、スマートフォンで見たときに、どこを見ればいいのかわからない、ということでした。実際、宗政氏もスマートフォンで操作してみると、確かにどこを触っていいのかわかりにくい、と理解したそうです。そこで、ボタンやステータスに色を付けたり、シンプルな画面にしてわかりやすくしました。
アプリを作った直後は良くできたと思っていても、使ううちにおかしなところに気が付くことがあります。そんな時にはカスタマインを使ってすぐに修正していくことを心掛けたそうです。そのおかげで、職人は気軽にフィードバックすることができ、良いサイクルが回り始めました。
「職人もはじめは『なんでこんなの触らなあかんねん』といった感じでしたが、カスタマインで使いやすくすることで、使ってくれるようになりました。また、職人の『次にどのような依頼がどのくらいの量がくるのかわからない』というストレスは、週1回のミーティングで「案件管理」アプリを見せながら割り振りを決めることで解消されました。『kintoneを見たらいいんか』といった感じで情報がスムーズに共有できるようになったのです」(宗政氏)
納品場所もアプリに入っているので、指示しなくても職人が自分で納品に行ってくれるようになりました。また、宗政氏たち設計側も誰がどんな仕事をしているのか把握できるので、図面を誰に渡せばいいのか判断できるようになりました。
アートワークスではLINEやInstagramの公式アカウントを運用しているのですが、ここからの問い合わせも増えているそうです。しかし、SNSからの問い合わせはハンドルネームを使っていることが多く、氏名がわからないまま案件として登録するしかありません。話が進んで氏名が判明した時に、また顧客マスタを編集するというのが想像以上に面倒だったそうです。そこで、カスタマインを使い、「顧客マスタ」アプリを「案件管理」から編集できるようにしました。「案件管理」アプリから色々な作業を完結できるように工夫しているのです。
来店時の顧客シートの入力も、これまでは紙に書いてもらっていました。ここもkintone×カスタマインで改善する予定です。
「来店されたお客様に顧客管理アプリに直接入力してもらうことはできないので、カスタマインでポータルにボタンを用意して、ポップアップに入力してもらおうと思っています。紙からkintoneに情報を転記する手間がありませんし、転記ミスもなくなるので、ぜひやりたいですね」(宗政氏)
最後に今後の展望について伺いました。
「今まで社内の環境を整備して見える化を進めてきて、色々なデータが溜まってきました。私は広報も担当しているので、今後は、そのデータを効率的に活用していきたいと思っています。例えば、案件管理アプリにはどの地域にお客様が多いのか、どの家具が人気なのかといった情報が全部入っているので、それを分析して狙ったところに広告を出していきたいです。カスタマインでもやりたいことがいっぱいあります。使う人がボタンを押す回数を減らせるような工夫をしたり、ステータスの変更を可能な限りカスタマインで自動化したいですね」と宗政氏は語ってくれました。
取材 2024年7月