旭川市役所様 事例紹介

公開日:2024-06-20

三層分離の自治体ネットワークでkintoneを使うためにカスタマインを活用

旭川市役所
行財政改革推進部 行政改革課 水沢 悠 様
長寿社会課 中村 結莉 様

旭川市は北海道のほぼ中央に位置し、面積は約750平方kmと広く、北海道の流通の拠点となっています。多くのスキーリゾートに加え、旭山動物園も有名で多数の観光客が訪れている都市でもあります。

人口は北海道では第2位となる約32万人の日本最北の中核市であり、市役所の組織が細かく分かれていることなどから課をまたいで連携しなければならない業務も多くあり、全体的な業務効率の向上が課題になっています。

さらに、人口減少や少子高齢化が進む中で、将来を見据えて行政サービス向上と業務効率化を両立する必要があり、旭川市はその手段としてDXに積極的に取り組んでおり、将来的には日本一のデジタル行政を目指しているそうです。その一環として、2022年に「kintone」と「gusuku Customine」(以下、カスタマイン)を導入しました。

紙が根強く残る自治体の業務をデジタル化し、業務効率の改善とミスの抑制を実現した経緯について、庁内のDX推進を担う行財政改革推進部 行政改革課 水沢悠氏と長寿社会課に所属している中村結莉氏に伺いました。

左)水沢氏 右)中村氏

■カスタマインのExcel出力機能でkintoneからLGWAN環境にデータを連携

旭川市役所では、2020年度に全庁の業務量を調査したそうです。どんな仕事にどれだけ時間をかけているのかを徹底的に調べ上げたのです。その結果、正職員にしかできないコア業務が6割で、必ずしも正職員でなくても処理できるノンコア業務が4割もありました。

「市役所の仕事は国に進め方が決められていることが多く、業務フローの中に決裁や確認、送受信といった作業がたくさん入っています。すべての部局で、このような仕事の進め方をしているのが課題でした」と水沢氏。

2020年度 業務量調査結果

それぞれの部署で様々な仕事があるので、デジタル化して業務効率を改善させるにしても既存のツールを1つ入れて解決、というわけにはいきません。そこで、ツールの選定を行ったのですが、必須だったのが「ノーコード」で活用できるという条件でした。現場の職員が使えなければ意味がないからです。

kintoneであればノーコードでニーズに合わせたアプリを開発できますし、プラグインや連携サービスが豊富で拡張性がとても高く、さらに他の自治体の事例が大量に公開されています。そこで、kintoneの採用を検討し、サイボウズの自治体向けkintone1年間無料キャンペーンに参加しました。また、水沢氏と実証実験で参加した現場の担当者はガブキン道場※にも参加し、アプリを開発しながらkintoneについて学びました。

※ガブキン(GovTech kintone Community)は自治体職員向けのkintoneを活用したDX・業務改善力を身につけられるコミュニティです。

「kintoneを使い始めてすぐに、カスタマインをはじめとする連携サービスやプラグインが必要だということがわかりました。行政のネットワークは「三層分離」なので、どうやってkintoneで扱っている情報をLGWAN環境で利用するか、と言うのが課題だったのです。kintoneの導入は、そこを含めた様々な運用課題を他に類を見ない対応力で解決してくれるカスタマインありきで決めました」(水沢氏)

自治体は個人情報を扱っているので、情報漏洩対策が必須です。そこで、利用するネットワークを3つに分ける「三層分離」を導入しています。旭川市役所ではその中のαモデルを採用しており、インターネットに接続する環境、人事や文書など様々な情報を管理するLGWAN環境、そしてマイナンバーを利用する分離された環境の3層に分離しています。

旭川市役所 ネットワークの三層分離構造

LGWAN環境にあるPCに仮想ブラウザを導入し、kintoneにアクセスすることはできます。しかし、LGWANのシステムからインターネット上のkintoneにあるデータに直接アクセスすることはできません。kintoneのデータをLGWANのシステムで利用する場合、一つの方法としてkintoneの画面を見ながら転記することが考えられます。しかし、デジタル化して業務を効率化しようとしているのに、手作業で二重入力するのは非効率でミスも発生しやすく本末転倒です。また、kintoneでPDFファイルを作成しても、ファイル数が多くなれば添付作業やファイル名・添付順の調整に手間がかかるほか、決裁過程での修正に対応できないなどの課題がありました。

「カスタマインで必要なデータをまとめてExcel出力して、LGWAN環境に持ってくるという業務の仕方が、行政の業務として綺麗に成立しました。件数が少なくまとまったファイルを動かすだけであれば、ユーザーの使用感としてはあまり苦ではなかったのです」(水沢氏)

■カスタマインを活用して業務効率化とミスの抑制を実現

最初に作ったのは、ガブキン道場に参加しながら開発した「就学・教育相談」アプリです。相談員に申請者の情報を共有したり、学校に場所を用意してもらったりすることがあるのですが、関連する人物が多岐にわたり、扱う情報量が多いという課題がありました。そこで、kintoneに情報をまとめ、関係者が自ら情報を得られるようにしたのです。

「カスタマインで色々と職員の使い勝手を向上しています。まず、情報が縦にずらっと並んでしまうので、タブ分けして見やすくしました。市役所では急な問合せに対応できるよう検索性や視認性が重要になりますので、多くのアプリの一覧画面にはレコードを検索するための検索フォームも設置しています」(水沢氏)

市役所の職員は全員がデジタルに詳しいわけではないので、自分で情報を取りに行ったり、何度もクリックする作業があると活用が進みづらくなってしまいます。そのため、カスタマインでユーザーの使い勝手を向上させました。

もともとこの作業のため年約350時間もかかっていましたが、この「就学・教育相談」アプリを活用することで、教育委員会や学校、相談員、申請者など全員の作業が楽になったことで作業時間が4割ほど削減されたそうです。

就学・教育相談アプリ 入力画面

ふるさと納税に関する情報もkintoneで管理しています。ふるさと納税は様々なポータルサイトがあり、ポータルサイトごとに管理する寄附情報や返礼品注文情報の形式が異なります。そのため、全ての寄附情報や返礼品注文情報をまとめて管理・集計することは容易ではありませんでした。旭川市では各ポータルサイトのデータを一つのアプリ内で一括管理できるよう自分たちでアプリを作成されたそうです。

実際にアプリを見せていただくと、ポータルサイトごとに分かれたアプリと一括管理を行うためのアプリがありました。各ポータルサイトから寄附情報や返礼品注文情報をCSV形式として取得し、CSVデータを加工せずにその項目のままポータルサイトごとのアプリに登録されるそうです。そこから、管理・分析ができるように一括管理を行うためのアプリに集約する、といった運用をされていました。この集約を行う際に、ポータルサイトごとに分かれたアプリから必要な情報を抽出・統合し、集計に必要なデータの作成をカスタマインで実現されています。

「例えば、議会から質問が来ると、そのたびに一生懸命手作業で集計を行っていました。ふるさと納税を扱うポータルサイトごとに、同じ製品なのに商品名が違うことがあるので簡単に集計できないのです。相当な時間を要して回答していたのですが、カスタマインでデータを取りまとめて、検索できるようにしたので作業時間の大幅な削減が実現しました」(水沢氏)

また、ふるさと納税の返礼品は、事業者から返礼品登録の応募があり、その審査を市や国で行っています。返礼品の内容や価格など都度変更になることがあり、これまでは返礼品情報をExcelで管理し、変更があった場合は上書きで情報を更新していたため、1つの返礼品の変更履歴を追うことができませんでした。そこで、返礼品情報をkintoneで管理するのとあわせて、変更後の情報を別のレコードとして登録することにしました。その際にアプリアクションやルックアップだと何回もクリックする必要があり、ミスが起きる可能性があるため、ワンクリックで処理できるように一覧画面にボタンを設置しました。変更があるときにはこのボタンをクリックするだけで、必要な情報が入力された新しいレコードを追加できるようにするなど、ユーザーの手間を省く工夫を随所に凝らしました。

各ふるさと納税のポータルサイトからのデータをCSVでkintoneに登録し、登録後にカスタマインで集約

■現場の職員も自分でカスタマイズして業務改善を実現!

中村氏は2023年6月にこの業務を担当したばかりで、すでに色々なアプリを手掛けています。人材育成の方法が気になるところですが、実際は「そんなに教えていません」と水沢氏。基本的なことを伝えただけで、中村氏が自分で調べてアプリを作りました。その際には、カスタマインのチャットサポートも活用しました。

「カスタマインに触って、最初は簡単かなと思ったのですが、躓くこともありました。そんな時、ちょっとしたことでもチャットで質問するとすぐにレスポンスが返ってくるので便利です」(中村氏)

「よくDX人材育成と言われますが、(中村氏のように)すぐにkintoneを使えるようになる人は組織の中にたくさんいるはずです。そのような人たちを見つけることも大事だと思います」(水沢氏)

そんな中村氏は福祉保険部長寿社会課で高齢者の施設関係に関わる補助金申請などの業務に携わっています。少子高齢化対策として国が色々な施策を行っているので、迅速な対応が求められます。そこで、中村氏が開発したアプリが活躍します。

例えば、介護サービス向けの事業者支援金の事務処理では、まず事業者にWebフォームで必要事項を入力してもらいます。その情報がkintoneに追加されたら、施設の区分などがマスタの情報と一致しているかどうかを確認します。その際、間違っていれば色を付けて目立たせるようにするカスタマイズも行っています。

「お金の申請なので、金額が合っているか、口座情報がマスタと合っているか、などを確認しなければなりません。照合結果を入れるフィールドを作っているのですが、NGになった場合、レコード上部のスペースにNG項目を表示させて目視確認の作業を効率化させています」(中村氏)

従来は、申請書のExcelが来たら、その内容を見ながら別のExcelに打ち込んで、前回情報を目視確認して、異なっていれば手作業で修正し、その後、また別のExcelにコピーして決定通知書を作成していました。この手間のかかる作業が大幅に効率化され、目視や手作業が減るのでミスも起きなくなるはずです。

申請内容が一致していない項目を表示
申請内容がマスタ情報と一致しない場合にスペースに文字を表示するカスタマイズ

中村氏が作成したアプリの他にも、現場の方が作成されているアプリが数多くあります。例えば、公用車の管理アプリです。その機能の一つとして、車検や法定6ヶ月点検などの点検を管理する機能を組み込むことを検討しています。具体的には、点検対象の抽出と進捗管理のためのアプリとのデータ連携や、庁内各課や外部の関係者への各種通知をまとめて作成するカスタマイズなど、現場で使いやすいような工夫を考えています。また、今後は公用車をはじめとする様々な予約アプリの開発も予定されていますが、こうした予約枠管理機能はWebhookカスタマイズを活用される予定とのことでした。

最後に、今後の展望について伺いました。

「アプリの作りをシンプルにしたり、マニュアルを作ったりして、担当が変わっても使えるようにしておくことを目標にしています。役所では目視確認をすることが多いのですが、それだけではミスはなくなりませんし、疲れてしまいます。審査業務の自動化がうまくいけば、他の業務にも展開し、全庁的な業務量の削減を目指していきたいです」(中村氏)

「今後は、kintoneを外勤でも使いたいという需要があるので、タブレットを利用してセキュアアクセスでログインし、外出先で図面を見たり、書き込んだりできるようにしようと考えています。市長が日本一のデジタル行政を目指すと宣言しているので、kintoneでの業務効率改善という成功体験を重ね、職員一人一人に自信を付けてもらい、どんどんチャレンジする組織風土にしていきたいです」と水沢氏は語ってくれました。

取材2024年2月