アイホン株式会社様 事例紹介

公開日:2023-11-29

脱ずっと使わされツール!そのためのカスタマイズが元営業でもできた

アイホン株式会社
情報システム部 IT開発課 主事 鈴浦 直樹 様
情報システム部 IT開発課 課長 若林 一磨 様

インターホンメーカーのアイホンは、低調だったkintoneの利用をコロナ渦で一気に推進し、いよいよ念願だった営業支援システムの作り直しにチャレンジした。ここで大きな効果を発揮したのが、アールスリーインスティテュートのノーコード kintoneカスタマイズツール 「gusuku Customine(グスク カスタマイン、以下カスタマイン)」だ。営業本部から情報システム部に移り、営業本部のユーザー目線でkintoneの利用促進を進めてきた鈴浦直樹氏、情報システム部 IT開発課 課長の若林一磨氏に話を聞いた。

「営業スタイルを変えたい」からkintoneを導入したが……

インターホンメーカーのアイホンがkintoneを導入したのは2016年にさかのぼる。「導入のきっかけになったのは、『今までの営業スタイルを変えたい』という営業本部からの要望でした」と情報システム部 IT開発課 課長の若林一磨氏は振り返る。

アイホン 情報システム部 IT開発課 課長 若林一磨氏

マンションや戸建住宅にインターホンを提供するアイホンは、建設業界全体で見れば、住宅設備メーカーという位置づけになる。そのため、アイホンの営業から見ると、営業先は住宅やマンションの企画・開発を行なうデベロッパー、実際に建設工事を行なう建設会社、電気設備工事を行なう電設会社、電設資材の卸売業者など複数に渡りそれぞれに営業担当がいる。

そのため案件が1つであっても、それぞれの営業先の情報はリアルタイムでは共有されておらず、会議等で共有するタイミングを迎えるまでは担当者の頭や手帳の中に閉じていた。全社員の約半数にあたる営業が複数の拠点で活動する中、上司と部下、関係各所がそれぞれなにをやっていたのか詳細な所まではわからなかった。 これを見える化したいというのが、営業本部から情報システム部に届いたリクエストだった。

このリクエストに応えるため、営業本部が利用する基幹システムのベンダーに情報システム部が問い合わせたところ、ちょうどよいパッケージがなかったため、手組みか、テンプレートをベースにした開発になるという答えが返ってきた。結局のところ、希望する品質を満たせそうになく、かつ予想以上にコストもかかることがわかったため、社内から名前があがってきたkintoneを試すことになったという。2016年の夏頃の話だ。

検証を始めて半年後にはベンダーも決め、カスタマイズ前提でkintoneを営業支援システムとして利用することにした。しかも、翌年の2017年に品質管理で有名な「デミング賞」にチャレンジするため、営業の活動履歴を管理する営業支援システムは必須となり、わずか4ヶ月という急ピッチでシステムを構築しなければならなかった。「支店・営業所の意見をろくに聞けない状態で、本社の営業本部の思いだけを突貫で詰め込んだシステムだった」と若林氏は振り返る。

その結果、生まれたのは支店・営業所のリクエストからはほど遠い使い勝手の悪いシステムだった。そして、このタイミングで営業管理部に異動し、新しい営業支援システムを浸透させる役割だったのが鈴浦直樹氏だ。「自分でもよくわからない状態で、とにかく使えというための説明会で全国行脚していました。しかし、突貫で作ったシステムなので情報共有はある程度できるようになりましたが、支店・営業所からは使いにくいという不満が相次いでいました」と振り返る。

アイホン 情報システム部 IT開発課 主事 鈴浦直樹氏

自らが開発に携わったわけでもないのに、kintoneへの不満の声を浴びせかけられてきた鈴浦氏。2022年のkintone hiveの登壇のとおり、当時、kintone嫌いは最高潮に達し、支店長からの意見に対し、感情的になってしまい仕事をボイコットしてしまったこともある(関連記事:営業から突然開発へ 自称“IT素人”のアプリが1000名の仕事を変えるまで)。活動履歴に関してはどうにか使ってもらえるようになったものの、本丸である案件管理に関しては基幹システムのサブアプリという位置づけであったことから、利用度は低調なままだったという。

カスタマインの導入 まずはコロナ渦のテレワーク対応で実績

不評なkintoneシステムを使っていた期間は実に3年も続いた。この状況に風穴を開けたのは、グレープシティの「krewSheet」だった。2019年3月、kintoneの見た目や操作性をExcelライクに変更できるkrewSheetを導入したことで、kintoneのインターフェイスは多くのユーザーが親しんだExcelに近くなり、社員からも高い評価を得ることができた。ようやくkintoneに慣れてきた段階で、鈴浦氏が出会ったのがアールスリーインスティテュートのkintoneカスタマイズツールのカスタマインである。

最初に試したのは、kintoneのサービスをウォッチしていた情報システム部の担当者だ。kintoneを社内に浸透させるミッションを遂行するにあたり、鈴浦氏の相棒ともいえる存在だ。一足先に無償版を試していたその情報システム部の担当者は面白いツールであることは直感したが、自身がJavaScriptも書けるエンジニアであるため、コストをかけてわざわざカスタマインを導入するかは迷っていたという。また、試した時期はカスタマインがリリースされたばかりで、機能面もサポート面も、情報提供という点でもまだまだだった。こうしたことから導入までに至らなかったという。

一方、カスタマインについて知った営業管理部の鈴浦氏の反応は、情報システム部の担当者と全然違う。前述したとおり、アイホンのkintoneシステムは情報システム部が管理、ベンダーが開発を行なっており、営業本部では改善の余地がなかった。「kintoneシステムの浸透を担当していましたが、私自身に知識やスキルがあるわけではなく、開発は外部ベンダーに頼らなければならず、歯がゆさを感じていました」と鈴浦氏。でも、自らがkintoneのカスタマイズができるのであれば、ユーザーの不満を解消できるかもしれないという期待があったという。

期待に胸を膨らませ、2020年2月に地元の名古屋で開催されたハンズオンセミナーに参加した結果、カスタマインを導入することにした。とはいえ、実はいったん寄り道をしている。「もともとは営業支援システムを作り替えるために導入したのですが、コロナ禍での在宅勤務対応でkintoneを使えないか?という相談が上司からありました。kintoneとカスタマインならできるかもと思い、やらせてもらうことにしました」と鈴浦氏は語る。

チャレンジしたのは同社独自の「連絡書」という申請の仕組みをkintoneで実現することだった。仕組みと言ってもシステムではなく、Excelの申請書をメールに添付して、承認者に送り、印刷・捺印・ファイル化を繰り返していくというバケツリレーだ。

汎用性のある申請フォームのため人数も承認先も不明なので、kintoneのプロセス管理では難しそう。そんな複雑で面倒な仕組みを鈴浦氏はkintoneとカスタマインで極力シンプルにシステム化していった。申請画面を起動すればログインユーザーの所属と氏名が自動でセットされるので、あとは承認者を自由に選び、次の担当者にも自動で通知がいく。トヨクモの「プリントクリエイター」を使って、今の帳票イメージと同じ形に出力できるようにした。

カスタマインで念願の営業支援システムの作り直しへ

krewSheetの導入に次いで、この連絡書のkintone化は「潮目」だったと鈴浦氏は振り返る。もともと営業本部内での利用だけを想定していたが、技術本部、生産本部、管理本部、商品企画部など他部門にも広がりを見せることになった。結果として連絡書には1000ヶ所以上のカスタマイズが行なわれ、使い勝手はどんどん向上していった。そして、いよいよ本丸の営業支援システムの刷新に移る。「もともとあった営業支援システムはカスタマインで全部作り替えました」と鈴浦氏は語る。

営業支援システムの刷新について説明する鈴浦氏

2016年に作られた営業支援システムは、外部ベンダーの開発の結果、「kintoneの面影もない」(鈴浦氏)という見た目だった。営業本部としてやりたいことは伝えたが、どのような画面がよいかは伝えていなかった。その結果、要求とアウトプットが大きく違ったものになっていた。krewSheetを反映させた内製アプリは使いやすくなったものの、外部ベンダーが開発した営業支援システム自体は変わっていないので、設計自体を抜本的に変えていく必要があった。

課題はいくつもあったが、1つ目のポイントは市場ごとに別れていたアプリを統合することだ。鈴浦氏は、「集合住宅向けだけでなく、戸建住宅のインターホンや病院用のナースコールも扱っているのですが、会議の時も今までは集合住宅、戸建住宅や病院といった販売先の市場ごとにアプリを切り替えなければなりませんでした。営業本部の支店・営業所の営業担当者は、市場より担当者ごとの案件の状況が見たかった」と語る。担当者ごとの活動履歴や商流を見て、次の打ち手を考えるのが従来の営業会議だが、販売先の市場ごとにアプリを使い分けて会議を進行せざるをえなかったという。

もう1つは、イレギュラー案件を含むすべての案件に対応できるように、想定されるすべての項目を並べてしまったこと。「イレギュラーにも対応できるように項目を並べたのですが、調べてみるとイレギュラーな案件は数%しかない。『この項目使ってないじゃん』と指摘しても、営業本部からは『使うことがあるから』という答えが戻ってきてしまうので、数字で実証する必要があったんです。さらに踏み込んでヒアリングしてみると、イレギュラーなんて備考欄に書ければいいですという答えが返ってきました」(鈴浦氏)。使われている項目に絞り、あとは備考欄で吸収するというのが新システムの指針だった。

鈴浦氏がカスタマインでリニューアルした営業支援システムは、案件と活動履歴が一望できるようになった。案件アプリから検索すると、関連する 活動履歴が表示される。「たとえば病院などの場合、フロアごとに発注が違うので、案件としては別になります。そのため、建物というグループを設け、複数の案件が所属できるようにしています」と鈴浦氏。営業支援システムとしてアイホンの営業スタイルにフィットしたものになっている。

営業支援システムでのカスタマインのカスタマイズとは?

カスタマインによるカスタマイズとしては、まず社員名入力の省力化が挙げられる。ワークフロー等の入力欄において、ログインユーザーのアカウントを引っ張ってきて、社員名簿とひも付けて、部門や上司をルックアップで登録できるようにした。ワークフローに関しては、ほぼこのカスタマイズが入っているため、標準機能だと思っているユーザーも多いという。

kintoneでカスタマイズされた社員情報のセット
カスタマインでの社員情報セットの設定

その他、カスタマインでは入力項目に色を付けたり、保存する際にデータにチェックをかけたり、保存の可否やワークフローの承認先を確認するダイアログを出したり、数多くのカスタマイズを施している。すでに100箇所以上のカスタマイズを実施しており、ユーザーごとの表示・非表示を多用している。「ユーザーからすると、必要な項目だけ見えればいいと思うので、不要な項目は見せないようにしています。逆にメンテナンスする立場の自分 用には、全部の項目を見せるようにするボタンを作っています(笑)」(鈴浦氏)。

確認ダイアログのカスタマイズ例
カスタマインでのダイアログの設定画面

営業としては案件に対して活動実績を登録していくことになるが、こちらも誰に対して共有するか、ユーザー選択フィールドから選択できるようにカスタマイズした。これにより、メンション相手と案件に関してやりとりが発生するようになった。「担当者が支店長にメンションを付けて相談するようになった結果、風通しの良い支店も出てきました」(鈴浦氏)。

もちろん、案件に関しては、ひとつのアプリで担当者別、地域別での並べ替え、絞り込みも簡単に可能になった。これによりメンバーの活動内容が見える化できた。当初、営業本部が情報システム部にリクエストしたことがカスタマインを利用することで実現できた。

新しくなった営業支援システムはようやく営業活動に根付いてきた。「最初は目的がわからなかったので、やらされ感しかなかった。でも、この1~2年で、活動実績を登録することで、自身だけでなく他の営業担当者が行なってきた活動を、案件ごとに時系列にまとまった一覧で見えるのが支店・営業所もわかってきました」と鈴浦氏は振り返る。活動履歴のデータを溜め、有効活用していくのが今後の方向性だという。

つい先日も「新製品の登場に伴う営業戦略とその活動をチェックしたい」という営業本部から支店・営業所へ のリクエストに対して、支店・営業所からは「日々の活動履歴を入力してきたのだから、本部こそ集計して活用してくれ」という返事が戻ってきたという。営業本部から相談を受けた鈴浦氏は、「kintone導入当初に活動履歴の登録を面倒くさがっていた支店・営業所の反応を見てきた僕からしたら、『どの口がその台詞を言うんだ』という心情ですが(笑)、内容的には項目を1つ増やすだけのことでした。」とコメントする。

営業本部時代は、パトロールと称して朝夕にkintoneの使い方をチェックしていたという鈴浦氏。情報システム部のメンバーからは「そんなの情シスはやらんよね」とからかわれるということだが、やはり元エンドユーザーだけにツールを活用してほしいという気持ちが強い。「やっぱりユーザー自身に効果を体験してもらわないと、ずっと使わされツールになってしまいますよね」と自戒を込めて語る。

他のユーザーにもカスタマインを 次は各部門での開発の全社展開を目指す

当初は営業本部のみで使用していたkintoneだが、2022年にはほぼ全社員がアカウントを保有し、営業本部以外での活用も広がっている。kintone の用途拡大に伴い、現在は鈴浦氏のみがヘビーに使っているカスタマインも、今後は社内に他ユーザーを増やしていきたいと考えている。最近のバージョンでは、アクセス制御によって、カスタマイズできるアプリを制限できるので、安心して配布できるという。

「社内のkintoneへの要望もどんどんレベルが高くなっていますし、自分でもできるので、誰でもカスタマインは使えると思っています。私のITリテラシーが特別高いわけでは無い、むしろ低いくらいということは自他ともに認めています。こんな私でも社内の困りごとを解決できた体験を社内の多くの方に経験して欲しいと思っています 」と鈴浦氏は語る。

よりスコープを拡げると、アイホン社内でもデジタル人材の育成に取り組んでいる。情報システム部の若林氏は、「各部門内でも自ら開発に取り組んでもらおうということで、今期からkintoneとはなにか?というところからハンズオン研修をスタートさせています。プラグインやカスタマインを使って、より高度なものを作れるようにしていきたいと思います」と語る。

情報システム部に移った鈴浦氏は、出自である営業本部とは異なる生産本部と仕事を始めたが、「言っていることが通じない」という壁を感じるという。「営業の業務はわかるのですが、生産は業務も言葉もわからない。だから、こうしたらいいのでは?という提案ができません。だから、業務がわかっている方がアプリを作るのが一番いい。kintoneとカスタマインであれば、ある程度までできると思っています」(鈴浦氏)。

今回は営業支援システムの作り直しがテーマだったが、次回の取材は全社展開がテーマになるかもしれない。鈴浦氏の次のカスタマインジャーニーに乞うご期待だ。

出典元:ascii.jp kintone三昧(一部加筆修正しています)