公開日:2022-11-17
作業が3倍に増えても1/3の工数でできた!kintoneとカスタマインで加速するDX元年
豊後大野市
財政課 財政係 副主幹 武藤 昭文 様
高齢者福祉課 介護保険係 副主幹 首藤 純一 様
総務課 情報推進係 主任 古庄 充裕 様
大分県豊後大野市様は、日本百名山のひとつ祖母山をはじめ 幅120mの大瀑布 原尻の滝、日本一のアーチ橋 轟橋など、ダイナミックな自然と建造物を併せ持つ「人も自然もシアワセなまち」です。
同市の市役所では全庁でサイボウズ社のkintoneを2021年に導入し、翌2022年にはアプリの使い勝手向上を目指してJavaScript不要で同ツールをカスタマイズできるgusuku Customineを導入されました。今回は、導入の経緯と活用効果について詳しくうかがいました。
【課題】事務事業評価調書の作成工数が3倍に増える変更が発生
第2次豊後大野市総合計画後期基本計画を達成するために行われる事業の報告書である総合計画実施計画書/事務事業評価調書。その作成作業はとても負荷の高いもので、もともと5人がかりで2ヶ月弱をかけ、約160事業の事務事業評価調書のExcelデータをメールで収集し、2回のデータチェックを経て簿冊にまとめていました。
この調書の書式が令和3年度から変更になり、約600事業分の調書を編集することが決定します。事務工数が3倍以上に膨らむことを受け、同事務を担当する財政課の武藤氏はこれまでの編集方法を刷新する必要性を感じました。
kintone 導入前の事務事業評価調書の作成手順(5人で2ヶ月必要)
①調書のフォーマットをExcelで作成し
計23課にメール送付し入力を依頼
②1次チェック
③2次チェック
④Excelファイルを取りまとめ
意図せず書式が崩れて提出される問題に対応
いくつかの修正依頼に対応
⑤PDFに加工
⑥簿冊作成
Excelで業務を進める時の問題点
- ファイル間の計算ができない
- 入力者が書式を意図せず変更してしまう
- 複数人が同時にファイルを開けない
- 修正箇所が分かりにくい
- 計23課とのファイルのやり取りが煩雑
「例えば、まちづくり推進課からデータが上がってくる時は、A~E係長から5つのファイルがメッセージで届き、A~Eのファイルの差分を足して、まちづくり推進課の1つのファイルに仕上げる必要がありました。これを計23課分Excelでやることは想像したくありませんでした」と武藤氏。
この問題の解決策を探す中で武藤氏はkintoneに出会います。kintoneはクラウド上にデータが集まっていて、大勢の人が同時に入力・修正作業を行えて、それらのデータを1つの帳票として出力できる。これを知った武藤氏は、すぐさまkintoneの30日お試し期間を利用して「事務事業評価調書作成」アプリを試作し、調書作成が可能なことを確認しました。
この経験から、kintoneはプログラミングなしで利用でき、複数の部署とのデータの送受信、集計にかかる時間を短縮できると判断し、kintoneの全庁での利用を正式に提案。初年度は同調書に関わる人を中心とした利用が決定し、2021年の7月1日から本格的にkintoneの利用が始まりました。
「事務事業評価調書」アプリの稼働が始まると、新たな課題が発生しました。アプリには350個の入力項目があり、その入力フォームはあまりにも長かったので、入力を担当する複数の職員から「スクロールが長すぎて作業中に混乱する」との声が寄せられ始めたのです。
【選定のポイント】入力担当者にラクになったと実感してほしい
「事務事業評価調書アプリの入力項目が長すぎる」との職員の声を受けて、武藤氏はkintoneアプリにタブ機能をつけることで入力の負荷を下げることにしました。その実装方法を調査する中でgusuku Customineに出会い、行政職員のためのkintoneの公式ユーザーコミュニティ「ガブキン(サイボウズ社が提供する、行政職員のためのkintone公式ユーザーコミュニティ)」を通じてgusuku Customineを試用。その結果、自分たちで使えるツールと判断し予算を申請、導入が決定しました。
「gusuku CustomineはタブだけでなくPDF出力など、本当に色々なことに使えるので、kintoneアプリを更に使いやすくできると直感しました。管理者である私達がラクになるだけでなく、入力をしてくれる担当課にもラクになったと実感してほしかったので、これは導入するしかないと思いました」と武藤氏。
Accessが得意な武藤氏はさておき、gusuku Customineはアプリを構築する他の職員の方々も本当に使いこなせるのでしょうか?その疑問には古庄氏が答えてくれました。
「gusuku Customineにはトライアンドエラーで少しずつ慣れていきました。チャットサポートが非常に丁寧で、私がカスタマイズで詰まっている部分のスクリーンショットを送ると、設定状況を一緒に確認し、解決方法を教えてくれるので助かっています」と古庄氏。
【運用と効果】「kintoneがさらに使いやすく、便利になりました」
ここからは、kintoneとgusuku Customineの導入効果を4つのアプリを例に紹介します。
作業ボリュームは3倍に増えるも、作成に必要な人と時間は1/3以下に
kintone導入のきっかけとなった事務事業評価調書アプリでは、gusuku Customineはタブの実装と600シート分のPDF出力などに利用されました。
「gusuku Customineがなかったら、事務事業評価調書は作れなかったと思います。導入しておいて本当によかったです!」と武藤氏。
同市では、帳票出力のために他社製のkintoneプラグインも利用しています。同ツールで事務事業評価調書のExcelをPDFにすると、仕様上1200ページのPDFファイルとして出力されます。資料のチェックを各課に1次・2次と依頼をする中で、1200ページの中から修正が発生した部分だけを変更するのが難しく、作業は難航。そうこうするうちに同ツールの1ヶ月の出力上限に達し、作業の大詰めで使用できなくなりました。
上限解除のための追加予算が取れず困っていた矢先に、武藤氏はgusuku CustomineのExcel出力機能を発見。同機能で、シート(1事業)ごとに規則のある名前をつけて、1タブ=1PDFとして600事業分のPDFを生成しました。事業ごとにファイルが分かれているため修正のあるファイルだけを差し替える作業も簡単で、議会に簿冊を提出するまでに50〜60の修正依頼に対応できました。
こうして完成した新・事務事業評価調書。kintoneとgusuku Customineの事務圧縮効果は絶大でした。作業に関わった人数は武藤氏と古庄氏の2名、作業期間はわずか20日。調書の量は3倍以上に増えましたが、取りまとめに必要な人と時間は1/3に減ったのです。またアプリ上で調書の修正履歴とその経緯を追えることも効果の1つです。議会において、どのタイミングにどんな理由で予算が変更されたのかを説明できるようになったのです。
おくやみの手続き一覧表の作成が1件20分から5分に短縮
お亡くなりになった市民のご遺族は市役所で各種手続きが必要です。そのため市役所では死亡者情報を12の課と共有し、必要な手続きをまとめて、ご遺族向けに一覧表を作成しています。
「おくやみ入力」アプリにおけるgusuku Customineの用途の1つ目は同時編集ロックです。1つのレコードに複数の課の人が同時に編集をかけてしまい入力データが飛ぶ事故があったため、その問題を解決しました。2つ目は転記先データの更新です。例えば、おくやみがあった時、各課にはご遺族に提出していただきたい書類があります。その書類を作成するために「おくやみ入力」アプリのデータを各課の業務アプリに転記します。そのため、「おくやみ入力」アプリのデータが変わると転記先のアプリデータも更新されるようにしました。
このアプリの効果も非常に大きいものでした。
「市民生活課が担当する部分では1件あたりの処理時間は20分から5分に短縮され、税務課が承継届を作成する時間も短縮されました。また以前は行政FAXで情報を共有していた6つの支所との情報連携も簡単になりました」とアプリ作成を担当した首藤氏。
「公用車管理」アプリで乗車記録の提出を電子化。紙を大幅に削減
公用車台帳を作成するためのアプリは、公用車約250台の走行距離・給油量などを記録し、監査資料を作成できます。gusuku Customineでは車番ごとに帳票出力を行うカスタマイズを行いました。
以前は乗車した職員がノートに乗車記録を記入し、月末と年度末に集計していましたが、現在はスマートフォン等を使い、他社製のプラグインを介してkintoneアプリへ入力できるため、集計作業にかかる時間と書類を大幅に削減できました。また車検満了日をリマインダーで知らせることで車検切れの予防にも役立っています。
職員調書の取りまとめが2時間30分から20分に短縮
「職員調書」は人事の参考資料を作成するアプリです。職員が異動希望や職場の課題等を入力する機能と、人事給与係が調書をまとめてPDFとして出力する機能があります。閲覧権限は人事給与係だけに割り当てており情報管理も可能です。個人のスマートフォンから入力できるようにしたことで、派遣、出向、病休等の職員も提出ができます。
以前は職員がそれぞれ調書を封筒に入れて提出していたため、その取りまとめと調書の印刷・製本に約2時間30分かかっていましたが、アプリではこの作業が20分に短縮されました。また製本を廃止しPDFでの運用としたため経費削減にもつながりました。
【今後の展望】DX推進元年に大きな成果。その流れを加速させる
市のDX推進元年である令和4年度に、kintoneで大幅な業務改善に成功した豊後大野市。市役所内でのkintoneへの関心は高く、kintoneの業務改善報告会には多くの職員が集まり、各自が改善したい業務が寄せられます。日常でも業務改善相談が増えており、武藤氏が一緒にアプリを作ることもあります。業務改善を通じた庁内の横のつながりが増えており、このよいつながりを巡らせて市民サービスの向上を目指しています。
「アプリを作るには、業務の流れを手順化していくことになるので、仕事の手順を見直すよいきっかけになります。業務改善でできた時間で、本来行政職としてすべき仕事により取り組めるようになります。私は自分の時間を市民の方に還元できると思って業務改善に取り組んでいます。令和4年度は、DXをさらに加速させて終わりますよ!」と武藤氏は展望を語ってくれました。
貴重なお話をありがとうございました。
取材2022年9月