エン・ジャパン株式会社様 事例紹介

公開日:2024-09-04

プラグインからの乗り換えで業務改善やDX推進を「加速」する

エン・ジャパン株式会社
DX推進グループ
グループマネージャー 高橋 淳也 様
システム企画チーム チームリーダー 野間 将太郎 様

エン・ジャパン株式会社は2000年に設立され、東京証券取引所プライム市場に上場しており、主にインターネットを活用した人材サービスを展開しています。従業員数は単体で2135 人、連結で3317 人、売上高は676億6100万円(2024年3月期実績) です。

主力事業の日本最大級の総合転職支援サービス 「エン転職」をはじめ、多岐にわたるサービスを展開しています。現在は掲載企業数No.1の「エンゲージ」という HR Tech サービスが急拡大中です。また、「ソーシャルインパクト採用プロジェクト」という、社会的なインパクトが大きい中央省庁や自治体、スポーツ団体の採用を支援するプロジェクトも推進しています。

エン・ジャパンでは急拡大する事業に即応するため、2017年にkintoneを導入しました。当初は必要に応じて色々なプラグインを入れていたのですが、kintone活用が進み、本格的に業務で活用するようになると安定性が求められるようになりました。そこで、「gusuku Customine」(以下、カスタマイン)を導入されたのです。

これまでkintoneで約6500のアプリを作成し、棚卸しをしながら現在は約1000アプリが稼働中とのこと。kintoneは、カスタマインとともに業務で欠かせないシステムとなっています。大企業がkintoneと連携サービスを採用し、活用・推進する中でどんなところに注意し成功に導いたのでしょうか。

エン・ジャパン DX推進グループ グループマネージャーの高橋淳也氏と、DX推進グループ システム企画チーム チームリーダーの野間将太郎氏にお話を伺いました。

左)高橋様 右)野間様

■急拡大する業務に対応すべく、柔軟性とスピードが求められた

エン・ジャパンは創業後、しばらくは右肩上がりに売り上げが伸びていましたが、リーマンショックの影響により人材ビジネスが低迷しました。そこで、2014年にメイン商材である「エン転職」をリニューアルし、起死回生を図りました。リニューアル後、ある程度の手ごたえをつかめたことで、そこから売り上げを5年で4倍にするという事業計画が立てられたのです。

「急角度で成長しなければいけなかったのですが、情シスとのスピード感が違いました。当時の現場では『1ヶ月後に業務フローを変更したいのでシステム改修してください』と言うと、情シスからは『今からだと3ヶ月後ですかね』と返答が来るような状態でした」(高橋氏)

現場では日々のPDCAサイクルを回す中で、山ほどやりたいことがでてきます。しかし、現場がやりたいスピード感に開発スピードが追いつかなかったのです。情シスは情シスでセキュリティ対応や基幹システム対応等の重要業務があります。情シスの体制を手厚くしたところで、すべての要望に応えるのはリソースの面から考えても無理があります。

そこで、高橋氏は社内向け/社外向け、売上を上げる/下げるというマトリックスで業務を分析し、社内向けの業務改善をして売上を上げる部分は情シスがやらなくてもいいのでは、と考えました。むしろ、事業を理解している人が作った方がスピーディだと考え、ノーコードツールを活用することになったのです。

業務分析の際に使用されたマトリックス

とは言え、目的ごとに様々なSaaSを導入していくと、収拾がつかないことは明らかです。kintoneのお試しをしてみたところ、「これなら自分たちでアプリ開発ができそうだ」と手応えを感じました。そこで、最初に「制作部門の実績管理アプリ」の開発にチャレンジしました。求人広告の発注や、原稿の執筆状況などを管理するもので、営業のSFAに近いイメージです。

「従来は、Excelで実績を管理していました。数十人のチームの達成率まで管理しようとすると、関数がとても複雑になります。皆が利用するので、Excelファイルが壊れたりすることもよくありました」(高橋氏)

スピーディに「制作部門の実績管理アプリ」が完成し、Excelからのリプレースに成功しました。さらに、必要に応じて、プラグインや連携サービスを導入しながら、業務で利用するアプリをどんどん開発していきました。業務改善効果も大きく、Excelのようにファイルが壊れないので安心してkintoneを使うことができ、活用が広まっていったのです。

■カスタマイン導入の決め手になったのは機能の豊富さと安心感

kintone導入当初は制作部でスモールスタートしたものの、営業部や代理店部など事業のコアな部分でもkintoneが活用されるようになってきました。そこで、プラグインや連携サービスの課題が浮かび上がってきました。

利用しているプラグインや連携サービスが競合して正常に動作しなかったり、あるプラグインのサーバーがダウンして使えなくなったりするケースが出てきたのです。エンタープライズ利用の場合、システムが停止して、業務も止まってしまうと甚大な影響が出てしまいます。事業のコア部分で使う場合、システムにはコストよりも安定性を求める必要が出てきたのです。

「複数のプラグインを入れていると、予期せぬトラブルが起きたときにどの会社もサポートしてくれないので、自分たちで解決する必要があります。また、プラグインごとに異なるUIや設定方法を覚えるのも徐々に負担になっていきました。弊社は使っているアプリ数が多く、カスタマインを入れるなら『年額1000』プランになるのでコスト面からなかなか踏み切れませんでしたが、課題が顕在化したことで本格的に検討を始めました」(高橋氏)

高橋氏はkintone周りの情報を日々収集しているので、カスタマインのことも知っていました。いつかは導入するだろうと考えていたこともあり、プラグイン競合などの課題をきっかけに移行の検討を始めたそうです。もちろん、フリープランを少し触って導入決定、というわけにはいきません。エンタープライズ利用の場合は、本当に必要なことが実現できるのかを事前に確認することが重要になります。

検討事項をしっかりとドキュメント化し、プラグイン・連携サービスの移行プロジェクトがスタートしました。プラグインからカスタマインへ移行するためには、機能面をクリアにするだけでは十分とは言えません。数多く使用していたプラグインをカスタマインに統合できるのか、自分たちで設定・管理できるのか、などの条件をクリアする必要があります。同時に、ツールの学習コストやメンテナンスの手間、そしてサービスが継続して提供されるのかどうか、というところも判断のポイントだったそうです。

実際に作成されている開発指針などが示されたマニュアル

「すべての機能をカスタマインで完全統一するのは現実的ではなかったので、一部残る部分をどうするのかなど、計画を立てて進めました。その後、プラグインを導入しているアプリにおいてカスタマインへ乗せ換えられるのか、という壮大なテスト作業がはじまりました」(野間氏)

 数十のプラグイン・連携サービスが数百個のアプリに入っていたのですが、すべてカスタマインを入れて設定し直しました。特定のプラグインの機能がカスタマインで実現できるか、ということだけでなく、実際に個々のアプリごとに確認用アプリを作成しテストしたのです。最終的にカスタマインを導入すれば無駄にならない工程だとは言え、凄い工数になったことは想像に難くありません。

既存プラグイン・連携サービスがカスタマインで乗せ換えできるかどうか確認

使う際の学習コストについては、カスタマインはヘルプや体験会、動画コンテンツが充実しているうえ、サポートに聞けばレスポンスよく教えてくれるので問題なしと判断しました。また、カスタマインの開発元であるアールスリーの事業継続性(サステナビリティ)については「いくつもの大手企業さんがカスタマインを導入しているので、安心感があります。売れ続けているので、事業の継続性はあるのだと判断しました」と高橋氏。

最終的に、すべての検討項目をクリアし、2022年7月に正式導入となりました。

実際にチャットサポートを活用いただいている様子

■カスタマインに集約することでプラグインの調査・検討の手間から解放された

テストの結果、それまで使用していたプラグインや連携サービスのほぼすべてがカスタマインに移行できることがわかりました。わずかにカスタマインでは実現できない機能もありましたが、その際はkintoneアプリを利用している現場に相談し、別の方法で代替することにしました。本気で、kintoneとカスタマインに業務を寄せていったのです。

こうして導入されたカスタマインは、さまざまなアプリで活用されています。例えば、ほとんどのアプリに検索フォームを設置しました。これにより検索に必要な操作が減り、作業が一層効率的になりました。

また、業務を進めるためのプロセス管理でもカスタマインを活用しています。kintoneの基本機能ではレコードを保存した後にプロセスを進めるボタンをクリックする必要がありますが、ボタンを押し忘れる人が出てきます。これを防止するため、レコードを保存すると自動でプロセスが進むようにカスタマインで設定しました。

さらに、複数のボタンが表示されているとわかりにくいので、必要なものだけを表示し、誤操作を防止しています。ステータスに応じてアプリ内に「ここでは●●をしてください」というテキストを表示するカスタマイズを利用しているアプリもあります。

「私たちはkintoneの他にもさまざまなITシステムを利用しています。kintoneを除く多くのシステムでは、情報を入力して保存すると次のフローに自動的に進みます。我々はカスタマインでその感覚に合わせたシステムを構築しました。エン・ジャパンのカルチャーには『ユーザーファースト』という考え方がありますが、これは社内のシステムにも適用しています。使ってもらえる、そして使いやすいと思ってもらえるシステムを作ることを最優先に考えています」(野間氏)

 

カスタマインの導入効果は大きいものでした。これまでかかっていたプラグインや連携サービスのコストが削減されました。また、サービスを集約することでkintoneアプリ開発者の育成コストも削減できました。体験会や動画コンテンツで基本を学び、ヘルプを見ながら試してみて、わからないことがあればチャットサポートに聞くことができるので、従来と比べてかなり楽になったそうです。

「一番大きい効果は、プラグインや連携サービスを調査する時間の削減です。以前は、やりたいことが出てきたら、まずはどのプラグイン・連携サービスでできるのかを調べ、問合せをしました。その後、トライアルを申し込んで試用し、比較検討してから導入する必要がありました。今は、カスタマインでできるかどうかだけを調べればよく、無理ならあきらめがつきます。そのため、ユーザーに見せるためのデモを作るまでの日数が半分から3分の1になりました」(野間氏)

例えば、4月に組織変更があった時はそれに合わせてシステム側でも変更が発生しました。システム側の変更によって社内のkintoneユーザーが混乱することが予想されたので社内問い合わせ窓口アプリを作ることになりました。この時はなんと高橋氏が30分ほどでプロトタイプアプリを開発して主要メンバーと合意形成。その後、野間氏がカスタマイン設定を含めた仕上げを担い、1営業日以内にリリースしたそうです。

社内問合わせ窓口アプリ

■これまでのノウハウを提供する、エン・ジャパン「DXリスキリング」をサービス化

最後に、今後の展望について伺いました。

「私たちが、色々なイベントに登壇する機会をいただく中で、大企業の中で愚直にkintoneのことを考え、運用してきた経験が貴重なノウハウではないかと感じるようになりました。そうであればこのノウハウを世の中に還元したいと考えました。多くの方々の支援のおかげでkintoneを効果的に活用できるようになったので、受けた恩を次の世代に返す「恩送り」をしたいのです。そこで、現在、エン・ジャパン[DXリスキリング]という名称のサービス化を進めています」(高橋氏)

「エン・ジャパン DXリスキリング」は2023年1月から先行スタートし、6月にはエン・ジャパンはサイボウズのオフィシャルパートナーとなりました。これまで培ってきたkintone活用のノウハウを共有し、企業のDX推進を支援するものです。

「私たちは、業務改善やDX推進のスキルは単にkintoneのアプリを作れることではないと考えています。目的を明確に決めて、プロジェクトをきちんと組んで、ガバナンスを効かせながら物事を動かしていく必要があります。ここを決めずにkintoneだけを使い始めると、多分潰れてしまいます。エン・ジャパン『DXリスキリング』では、DX人材の育成・発掘や組織変革にしっかりと伴走し、ご支援します」(高橋氏)

すでに導入効果も出ています。25人が働く大阪の町工場の会社でkintoneの研修を行い、kintone顧客管理により業績に好影響を与えています。さらに、現在はサポート管理アプリの開発を進めているそうです。

また、社員数1000名、1万名の複数の大手企業からもkintone研修を受注。加えて、業務改善やDX推進のベースになる「問題解決」や「プロジェクト管理」の基礎研修についても、高橋氏が研修講師を務められているとのことです。

「IR資料でも公表している通り、弊社内では、今『エンゲージ』という事業が急成長しています。事業の拡大と発展のスピードを落とさないようにkintoneとカスタマインを活用して業務改善やDX推進をさらに加速させたいです」と高橋氏は語ってくれました。

取材2024年4月