弁理士法人サトー様 事例紹介

公開日:2023-10-04

本棚を埋め尽くす「包袋」をkintone化し、50年以上の歴史を持つ老舗知財事務所が電子化のトップランナーに

弁理士法人サトー
所長 弁理士 南島 昇 様
パートナー 弁理士 榊原 毅 様

弁理士法人サトーは1968年に設立され、50年以上の歴史を持つ知財事務所です。国内・海外の特許庁に対して、特許や商標など知的財産に関する手続きの代理業務を手掛けており、主に大企業の大量の出願を代理で行っています。

50年以上に渡って事業を継続している老舗では、アナログ業務が骨の髄までしみ込んでいることが多いのですが、弁理士法人サトーも同じ課題を抱えていました。包袋(ほうたい)と呼ばれる書類の束ができ、それを数十年、場合によっては半永久的に保管するため、他に倉庫を契約しなければならないほどの量でした。

2012年に新しい所長が就任し、ペーパーレス化しなければならないと考えたものの、現状のワークフローを変えたくない人たちもいて、遅々として進みませんでした。しかし、コロナ禍で状況が一変します。リモートワークに対応するため、kintoneとgusuku Customineを導入したのです。

今回は、超アナログな知財事務所がkintoneを導入し、社内に浸透させ、ペーパーレス化を実現した経緯と効果について、弁理士法人サトー 所長である弁理士の南島昇氏と同じく弁理士の榊原毅氏にお話を伺いました。

左)榊原氏 右)南島氏

■案件ごとに作られる書類の束「包袋」をkintoneで電子化する

特許や商標など知的財産の権利化やその維持・管理には様々な書類が必要になります。顧客から提出される資料や基本的な申請書だけで、すぐに4~5ミリ厚になるほどです。出願後、特許庁で審査が進み、やり取りが繰り返されるとどんどん書類が追加されます。審査に不服があったり他社から異議が出されたりすると、審査が長引いて書類はさらに分厚くなります。この書類の束とそれを入れる袋のことを、知財業界の用語で「包袋」と呼んでいます。

実際にアナログ時代の包袋を見せてもらいましたが、マンガ雑誌ほどのサイズと厚さで存在感があります。しかも、書類がびっしり詰まっているので、重みも相当なものです。

弁理士法人サトーでは、1年に500件以上の出願をする上、特許であれば20年間、商標であれば半永久的に権利を維持できるので、包袋は最低でも20年は保管しなければなりません。多数の本棚に、膨大な書類を保管しており、事務所の他に倉庫も契約しているほどです。

書類の束が入った包袋

南島氏が以前働いていた別の事務所では、ある程度の情報がデジタル化されていました。2012年に所長に就任した際に弁理士法人サトーの状況を見て、10~20年もタイムスリップした印象を受け、何とかしなければ、と思ったそうです。

「さすがにこの状況は良くない、とペーパーレス化を推進しようと思ったのですが、50年以上にわたる過去の蓄積があると、業務のやり方が変わることに抵抗を持つ人がいます。そのため、所内のペーパーレス化は何年たっても進みませんでした」(南島氏)

包袋と、包袋を保管されている本棚

所内の抵抗がありつつも、包袋の数もかなり多くなり保管スペースやコストの問題は無視できないため、2019年末に電子包袋への移行を本格的に始めました。当初はスクラッチでシステムを開発しようとしたのですが、依頼したSEの方が体調を崩してしまい、引継ぎもできずに止まってしまったそうです。別の会社にイチから依頼するか、代わりのシステムを導入するか、悩んでいたところ、榊原氏はkintoneに出会いました。

「kintoneなら色々な業務に使えそうだと感じ、すぐに試してみました。他にもグループウェアのようなサービスを複数比較したのですが、kintoneはAPIが充実しており、外部サービスとの連携がしやすいので、導入を決定しました」(榊原氏)

システムを構築するにあたり、特許管理システム「KEMPOS」との連携が必須でした。データ連携ツールを利用することで、kintoneと「KEMPOS」を接続できるということがわかり、2020年11月にkintoneの導入を決めたそうです。また、クラウドストレージサービス「Box」と連携することでkintoneの容量不足を補い、やり取りされる大量の書類データを管理しています。

kintoneを見ればKEMPOSやBoxにある情報を確認することができる

■徹底的に所員の使いやすさにこだわって包袋アプリをカスタマイズした

包袋を電子化する際にまず取り組んだのは、「期限までの日数を表示したい」というニーズへの対応でした。

「特許庁の手続きには、それぞれ期限が発生します。60日だったり3年だったりと、法律で定められた期限があり、1日でも過ぎてしまうと特許自体がなくなる可能性もあります。その期限を管理することはとても重要で、僕らにとっては生命線みたいなものです」(南島氏)

以前はこの期限をKEMPOSで管理していましたが、KEMPOSを閲覧できるのは事務担当者のみで実際に提出書類を作成する技術担当者は閲覧することができなかったため、翌週に期限を迎えるものを抽出して紙で共有していました。それぞれの技術担当者は優先すべきタスクを紙にメモして、終わったら横線で消すといったアナログ処理をしていたのです。中には、包袋を期限順に積み重ねて、上から処理していく人もいたそうです。

翌週に期限を迎えるものを抽出して紙で共有・管理していた

これでは、技術担当者が各自で優先順位を定めるのに時間がかかりますし、見落としてしまうといったトラブルがいつ起きるかわかりません。とは言え、電子化するにしても、kintoneの基本機能で今日から期限まで何日あるのかを計算するのは困難です。日々、一人当たり50件程度の案件を抱えているので手動で更新するのも現実的ではありません。そこで、kintone導入後すぐにgusuku Customineの試用を開始しました。

gusuku Customineの「Job Runner」を使い、1日1回、期限日までの残日数を計算できるようにし、必要なレコードを更新するようにしたのです。残日数がわかることで技術担当者は素早く優先順位を定めることができ、その日に処理しなければならないタスクをすぐに把握できるようになりました。

Job Runnerで毎日「今日」の日付をセットし、計算フィールドで残日数を計算している

特許を管理する「KEMPOS」には多岐にわたる情報が入っているので、必要な部分のみをkintoneに連携させています。それでもフィールドが多いので、タブで切り分けるカスタマイズを行っています。

また、特許庁に書類を提出する前には、複数の人が包袋をチェックする必要があります。従来は特許出願に必要な項目を確認するためのチェックリストを付けて包袋を回していたのですが、会議や出張で担当がいないと仕事が進みません。包袋がどこで止まっているのかも把握できないという課題もありました。コロナ禍で、出社制限がかかった時も困ってしまいます。

このチェックフローをアプリ化することで、どこで処理が行われているかが一目でわかるようになりました。フローが進まないようなら、処理を引き戻して別の人にアサインすることもでき、格段に便利になったそうです。もちろん、リモートワークでも仕事を進められるようになりました。

チェックリストのExcelへの出力もgusuku Customineでカスタマイズしています。最初はkintoneで作成したチェックリストアプリを編集することでチェックを行っていました。しかし、顧客や手続ごとにチェック項目が異なる上、あまりに項目数が多くなり過ぎたため、kintoneアプリでチェックすることは現実的ではありませんでした。そこで、必要な項目をkintoneからExcelファイルに出力し、Box上でチェックできるようにしました。

包袋は申請前に案件担当者以外にも複数名でチェックしています。チェック用アプリのレコードを作成する際に、チェック担当者をkintone上で指定するのですが、複数のメンバーをいちいち指定するのは面倒です。そこで、案件担当者がレコードを作成すると、自動でチェックするメンバーをまとめて指定するカスタマイズも行っています。可能な限りユーザーの手間を省き、簡単に使ってもらいたい、という工夫です。

「アプリを業務で使っていると、そのうち必ず予想外の操作をする人が出てきます。想定していない操作をされるとトラブルの元になるので、チェックする担当者がまとめて入るくらいに自動化しておく方が安心です」(南島氏)

案件担当者がレコードを保存すると、1次チェック担当者と最終チェック担当者がセットされる

■2段階のステップを踏むことで、アナログな事務所にkintoneが浸透した

弁理士法人サトーではkintoneを所内に浸透させるために、2段階のステップを踏みました。まずは、kintoneに興味のある協力的な人たちに開発したアプリを使ってもらったのです。そこで、エラー出しを行い、意見を聞いてブラッシュアップすることでアプリの使い勝手を向上させたのです。その上で、全員にkintoneアプリの利用を義務化しました。

「最初から、kintoneを使ってください、と言うだけでは、そのうちみんな使わなくなります。kintoneはとても便利だ、ということを納得してもらう必要があるのです。gusuku Customineでアプリの使い勝手をとことん向上させることで、浸透する流れを作りました。今はみんなが使ってくれていますし、もうこの便利さから逃れられないと思っています」(南島氏)

業務管理のためのカンバンとして現在も包袋は残っているのですが、包袋の電子化を実現したことで、現在はほとんど紙が入っていない単なるクリアファイルになりました。特注していた包袋ケースも廃止したそうです。

■gusuku Customineを導入した感想を伺いました

「うちのkintoneアプリには欠かせないツールです。kintoneはとても便利ですが、複雑な業務で使用するアプリを基本機能だけで作ると、所員がどこに何を入れていいか分からず使ってもらえないのです。gusuku  Customineは入力すべき場所や内容を表示したり整理するといった点を補い、ユーザーが迷わずに使えるアプリを作るための非常に有力なツールだと実感しています。また、kintoneの所内浸透が進むにつれて、所員から基本機能では実現が難しい要望が寄せられるようになってきましたが、gusuku Customineで多くの要望が実現できています。kintoneが所内インフラとなるまで浸透できたのは、gusuku Customineのおかげだと改めて感謝しています」(榊原氏)

「うちは多分電子化に関してとても遅れていた知財事務所だったと思いますが、kintoneとgusuku Customineを導入することで、一気にトップランナーになりました」(南島氏)

最後に、今後の展望を伺いました。

「今後は、kintoneで顧客と迅速に情報をやり取りし、密に繋がることができればいいな、と考えています。直近では、これまでほぼ事務員が手作業で行っていた請求業務を、kintoneとgusuku Customineを使って自動化していくつもりです」(榊原氏)

「引き続きkintoneとgusuku Customineを最大限に活用して業務効率を高め、スピーディかつ高品質なサービスを提供できるように改善を続けていきます。また、せっかくkintoneとgusuku Customineで便利なシステムを作り上げたので、同業事務所にも広められたら良いなと考えています。知財事務所はそれぞれ慣習が異なりますが、gusuku Customineを活用すれば対応できると思います。kintoneとgusuku Customineの利用は、経営者から見ると、働き方改革に繋がるというメリットが大きいですね。今は在宅が定着して、出社比率は従来の20~30%になっています。これからもkintoneとgusuku Customineで業務改善を進めていき、顧客の満足度と利益率で日本一の知財事務所になることを目指します」と南島氏は締めてくれました。

取材日:2023年6月